アメリカで活躍していたモリス・チャンを引き抜いたのが、李登輝総統だった。李登輝は産業振興のために台北の南西にある新竹に工業団地をつくることを計画。手伝ってもらうためにモリス・チャンを呼んで工業技術研究院のトップに就けた。モリス・チャンは半導体を製造するノウハウは持っていても、設計するノウハウはない。そこで立ち上げたファウンドリがTSMCだ。

ちなみに新竹工業団地でTSMCの向かいには競合のUMCがある。この2社で半導体受託製造世界シェアの3分の2を占める。新竹には半導体の設計を受託するメディアテックもある。半導体を製造したい企業は、メディアテックに設計を頼み、設計図を持って道路を渡り、TSMCかUMCに駆け込めば事足りる。モリス・チャンはTSMCのみならず、そうしたモデルを持つ新竹工業団地の生みの親だった。

そのほかにも、台湾にはパソコンやスマホなど半導体を使うIT機器のメーカーやファウンドリが多い。iPhoneも、テリー・ゴウが創業した鴻海精密工業(中国ではFoxconn:富士康)抜きには語れない。今や台湾は半導体だけでなく世界のITハードウエア全体を支えていると言っても過言ではない。

台湾から学ぶことは山ほどある

一方で、大陸の中国人は対照的だ。共産党支配で、自分の頭で考えるより党に無批判に従ったほうが生き延びられるようになってしまった。『毛沢東語録』を読んで育った赤本世代は「考えてはいけない」と洗脳されているから、まともに仕事ができない。「一人っ子」世代は、甘やかされて育ったから、危機感がなく、職場でも「運転手付きの車を会社が用意しろ」などと甘ったれたことばかり言っている。そして今の習近平政権の言論統制は、毛沢東時代に近い状況で、失業した若者が街頭に出て文句を言うと危険だ、という理由で「寝そべり族」と化している。

日本も中国をばかにできない。台湾のすごさに感心はしても、相変わらず自国には危機感を持たず行動に移さない。地震を契機に台湾から学ぶことが山のようにある、と改めて考えるのである。

(構成=村上 敬 写真=時事通信フォト)
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