影響を与えた「YouTube動画のバズ」
JリーグとDAZNとの交渉が行われたのは、2016年の4月から7月にかけて。その伏線となった、ふたつのエピソードについて、まずは言及しておく必要がある。
すなわち「反動蹴速迅砲」の再現動画、そして「ミャンマーでのファーストコンタクト」である。
どちらも交渉の2年前、2014年の出来事であった。
まずは「反動蹴速迅砲」について。これは世界的な人気を誇るサッカー漫画『キャプテン翼』とJリーグによるコラボレーション企画で、作品に登場する必殺シュートを現役Jリーガーがリアルに再現して、その動画をYouTube上に公開するという動画企画である。
3月12日に第1弾として公開された「カミソリシュート」がファンの間で大きな話題となったため、その第2弾として「反動蹴速迅砲」が、5月1日に公開された。
再現を試みたのは、川崎フロンターレ所属の中村憲剛と大久保嘉人。相手が蹴ったボールを正面から蹴り返すことで、威力を倍増させた必殺シュートが生まれる、というものだ。
3本合わせて1000万再生
雨の麻生グラウンドで撮影された1分間の動画では、中村憲剛が蹴ったボールを大久保嘉人が即座に蹴り返し、そのままゴールに吸い込まれていく。一発で成功させたように見えるが、実は何度もテイクを重ねていたと、のちに中村憲剛が明らかにしている。
「あの日は、土砂降りだったんですよ(笑)。撮影日がそこしかなくて、台風みたいな大雨の中で嘉人と30分以上、ボールを蹴っていましたね」
そうした苦労の甲斐あって、この「反動蹴速迅砲」の動画は、1週間で400万再生を記録。
反響は国内のみならず、海外にまで及んだ。
さらに5月26日には、第3弾として「ツインシュート」も公開。3本合わせて、あっさり1000万再生をクリアしてしまう。
これに驚いたのが、チェアマンの村井だった。多くの予算や手間をかけず、ある意味「遊び感覚」で撮影した自分たちの映像に、これだけの反響が寄せられる。この時の経験が、村井にある決断を促すこととなる。