DAZNマネーの流入でJリーグの収益が倍増

それは、Jリーグの経常収益にも表れている。

村井がチェアマンに就任した2014年が122億6700万円。2ステージ制導入後は、2015年が133億3410万円で16年が135億6000万円と、10%ほど増加している。

ところが、DAZNマネーの流入が始まった2017年には、273億3100万円。前年から実に倍増である。

ただし、Jリーグの経営改善と同じくらい重要なのが、これからのスポーツ放送が「インターネットのほうに向かっていく」と、2016年の時点で中西が予見し、村井もそれに同意していたという証言である。

スマホを見ている男性
写真=iStock.com/liebre
スポーツ放送が「インターネットのほうに向かっていく」(※写真はイメージです)

起こった時のインパクトが大きいものに投資

日本でOTTが普及し、視聴環境が劇的に変化する――。

その発想の源は、どこにあったのだろうか。私の問いに、中西は「シナリオプランニングです」と答えてから、紙ナプキンに縦横のマトリクス図を描き始めた。

「シナリオプランニングというのは、縦横の軸で考えると理解しやすいです。縦軸は、それが起こる可能性。横軸は、それが起きた時のインパクト。『右上』だと、起きる可能性が高くてインパクトが大きい。たとえば大地震の備えなんかは、ここですよね。シリコンバレーでは『右下』、つまり可能性は低いけれど、起こった時のインパクトが大きいものに開発投資していく傾向がある。DAZNをはじめとするOTTサービスって、まさに『右下』のシナリオプランニングだったんですよ」

「可能性は低いけれど、起こった時のインパクトが大きい」とは、具体的にどういうことか。あえてサッカーにたとえると、守備の選手がゴール前までオーバーラップしたら、フリーの状態でラストパスを受けた、というシチュエーションが近いのかもしれない。

つまり多くの人にとっては、起こる可能性が低いと考えられるものに対して、中西は「必ず起こる」という確信があった。

ここでの確信とは「日本でOTTが普及する未来」。多くの日本のスポーツ団体に足りていない、このようなベンチャー気質というものが、当時のJリーグには間違いなく存在していた。

そして、それこそが、DAZNとの交渉の大前提だったのである。