NHK連続テレビ小説「虎に翼」が好調だ。ライターの吉田潮さんは「素晴らしいのは主人公を演じる伊藤沙莉だけではない。多くの魅力的なキャラクター、名場面の数々に印象的なセリフ、さらにはナレーションも素晴らしい。歴代最高の朝ドラになる可能性がある」という――。
2021(令和3)年10月30日、東京国際映画祭のオープニングセレモニーに登壇した伊藤沙莉
写真=WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ
2021(令和3)年10月30日、東京国際映画祭のオープニングセレモニーに登壇した伊藤沙莉

「虎に翼」魅力的なキャラクター、勝手にベスト3

話題の朝ドラ「虎に翼」。50話までの間に、怒りも悲しみも焦燥感も喪失感も経て、いよいよヒロインの佐田寅子(伊藤沙莉)が裁判官への道を歩き始めた。密度の濃い傑作なので、現段階で独自採点したところ、歴代朝ドラベスト3に届く点数だった(まだ半分あるのに!)。ここらで振り返って、3つの「ベスト3」にまとめてみる。

魅力的なキャラクター、勝手にベスト3

とぼけた人や呑気な人、細かい顔芸で笑わせてくれたキャラクターも多数いたし、繊細さゆえの悲劇を迎えたキャラクターもいて、甲乙つけがたし。順位をつけるのもどうかと思うが、「人としての気持ちのよさ」でピックアップしてみる。

3位 辛口&甘党の現実主義者 桂場等一郎(松山ケンイチ)

寅子に対して実にシビアなまなざしを送り続ける桂場。言葉少なく、無愛想な物言いだが、実は的を射たことしか言わない。寅子の母(石田ゆり子)を激怒させ、若造呼ばわりされたときも、後から思えばある種の予言だったとも。

ただし、寅子の素質や個性を誰よりも高く買っているフシがある。司法の在り方を「キレイな水が湧き出ている場所」と表現した寅子を「裁判官向きだ」と評したり、殊勝に礼を言う寅子に「薄っぺらいことを言うくらいなら、行動で示せばいい」と諭したり。

甘モノが好きで、こっそり食べようとするといつも寅子に邪魔されるのもご愛敬。

1位は空襲で亡くなった同級生

2位 えげつない娘→できる妻→たくましい嫁へ 猪爪花江(森田望智)

寅子の同級生で、寅子の兄・直道(上川周作)と結婚した花江も、物語の随所でスパイスとなっている。

女学生時代に虎視眈々と直道との結婚を狙ったしたたかさ。寅子とは真逆で、結婚や家制度に抵抗せず、波風たてずに自分がほしいものを手に入れることを選んだ女だ。

劇中では「スンッ」と呼ばれる行為、つまり「決して自己主張せず、疑問や怒りを口に出さず、黙ってニコニコしてやりすごす」ことができる女である。花江の存在は「全員が寅子のように賢く強く闘える女ではない」という、世の「スンッ」派女性の共感を呼んだに違いない。

対比としての存在だが、ことあるごとに寅子に発想の転換や配慮のヒントを与えてくれる、バランサーとも言える。義父(岡部たかし)の最期には強烈なツッコミとダメ出しで、ぎくしゃくした猪爪家を正常化させた立役者でもある。

1位 舌鋒鋭く批判を厭わない山田よね(土居志央梨)

女子部の同級生・山田よねの言葉は常に厳しい。寅子も寅子で黙っちゃいないが、よねが吐き捨てる鋭いセリフは「そこまで言わなくても」と一瞬思わせる。でも、その背景には自立の矜持と確固たる信念がある。

寅子だけでなく、弁護士を志す仲間にとっては、沈思黙考させたり、反省させたり、奮起させる効果をもたらす。視聴者は共感まではいかなくとも、よねが寅子の無二の友と認定したはずだ。

そんなよねは空襲で亡くなったと人づてに聞かされていたが、生きていたことがわかってひと安心。今後「法曹界に殴りこんでくるはず!」と思っているのは私だけではないはず。