寅子はふたりの名優によって作られている
ちなみに次点もちょっとだけ触れておこう。4位は漢の中の漢・轟太一(戸塚純貴)だ。男尊女卑の塊みたいなキャラと思いきや、轟は性差別をしない平等主義者。繊細な花岡(岩田剛典)を誰よりも理解していたし、勇猛果敢で勉強熱心な女学生たちへの敬意を言葉や態度でしめした、ただ一人の男である。
5位はなんといっても主人公の寅子である。沙莉の名演は既に書いたが(沙莉の記事)、沙莉に一体化した語りの尾野真千子も絶妙(私はマチナレと呼ぶ)。ふたりの名優によって作られる寅子の奥深さったら。
沙莉が寅子の血肉を、真千子が寅子の骨を形成。直情径行の寅子だが、沙莉が表情と動きで魅せる一方で、真千子が毒や怒り、孤独感や寂寥感も緩急をつけて語る。このタッグを考え付いた人、すごいよ!
夫を亡くした女たちの再生
記憶に・歴史に残る珠玉のシーン ベスト5
思わず噴いた場面や胸のすく場面、その深さに唸った場面を選りすぐってみた。
3位 死を美化せずお涙頂戴にしない 直言の懺悔末期(第43話)
個人的に朝ドラで描かれる「死」が、涙を誘う魂胆丸見えで冗長だと萎える。ところが、だ。寅子の父・直言が死ぬ前に、家族に対する懺悔大会を開催したのは強烈に面白かった。
家族への文句や恨み節ともとれる懺悔の垂れ流し。言い終えてスッキリする直言もおかしかったし、家族の塩対応にも納得がいった。美化しない「死」の描き方に深い愛情を感じ、溜飲の下がる思いもあった。
2位 母が伝授する喪失感と向き合う秘策 (第44話)
夫の佐田優三(仲野太賀)を戦争で失った寅子。悲しみに暮れながらも生活は困窮。そんなときに母・はるが寅子にこっそりお金を渡すシーンは、胸に刺さった。
「これは自分のためだけに使いなさい。贅沢じゃない、必要なことです。私も花江さんも思いっきり贅沢しました」と言う。
こっそり泣きながら大福を食べた母、泣きながら屋台で酒を飲んだ花江の映像が映し出される。夫を亡くした女が悲しみと喪失感とこの先の不安感で押しつぶされそうになったとき、どうふんばったのか、を描いた名場面である。
さめざめと泣くだけでなく、ちょっぴり利己的になることも、立ち直るための栄養剤なのだ。