芸術家が晩年に見せる「円熟」とかけ離れた激しい生き様が魅力

インターネットイニシアティブ 鈴木幸一 社長 
1946年生まれ。72年 早稲田大学卒業後、日本能率協会入社。92年インターネットイニシアティブ取締役。94年より現職。

仕事にのめりこんでいると往々にして客観的にものを考えられなくなるが、読書によって知識を増やしておけば、常に自分を客体化できる眼を養えるので、そう簡単には行き詰まらなくなる。

たとえば『晩年のスタイル』。ベートーヴェンなど音楽家を中心とする芸術家たちが、積み上げてきた己のスタイルを晩年になってもなお拒絶するような激しさで貫いた様を描いている。円熟とはかけ離れ、まったく収まりがつかないような生き様だが、格好いい。世間でひとくくりにされる「晩年」は、実は他人や社会が勝手に形づくっているにすぎないのだと気づかせてくれる。『日米交換船』は、第二次大戦下、ニューヨークと横浜の港から出航した船で敵国に居留する自国民を交換しあった船を描く。当時、船に乗り合わせていた鶴見俊輔が、80歳を過ぎて「忘れないうちに」と4日にわたる座談会で初めて語った史実を基にまとめられた。鶴見氏自身のこと、交換船に乗り合わせた多様な群像との接点が語られて、戦前と戦後の歴史的な屈折点が浮かび上がってくる。『イスラーム文化』は、イスラム文化の本質をわかりやすく、歴史的な視野で語られたものだ。今、世界で起きている宗教抗争は昔から脈々と続けられていたのだと気づかされる。その戦いで今や一晩に何十万人もの命が奪われるようになってしまった現実には違和感を覚えたりもするのだが。

(近野ひろ美=構成 永井 浩、久保田史嗣、芳地博之=撮影)
【関連記事】
クラシック入門の足がかりに! 二大巨頭の作風
「チャイコフスキー」なぜインテリに侮られるのか
「ロマン・ロラン」なぜ教養小説は読まれないのか
談志師匠の噺にはジャズの即興演奏のような楽しみがあった
文壇の重鎮 丸谷才一が語る「不朽の名作」(1)