極限状態に立ち向かう人間の行動力に心を動かされる
本を読まない人間とは付き合いたくないと思っているほど活字中毒の私だが、ビジネスハウツー書、成功者うんぬんといった本は読む意味がないと思う。成功とは、革新性のあることを形にして初めて成しうるものなので、他人のノウハウを真似しようとしているうちは、永遠に「その他大勢」に埋もれたままだろう。
子どもの頃から、読むだけで圧倒されるような、スケールの大きな本が好きだった。『エンデュアランス号漂流』は1915年の南極大陸横断の実話を綴ったものだ。途中で乗っていた探検帆船を手放さざるをえないという絶体絶命の危機に陥りつつ、リーダーであるシャクルトンの指揮のもと、1人の犠牲者も出さず全員が無事帰還したという話に圧倒された。隊員たちは見事なリーダーシップを発揮するシャクルトンを信じて言うとおりに動き、それが奇跡を起こした。極限状態のときに合議制は無用、大切なのは一人の果敢なリーダーシップなのだと思い知らされる。独断と偏見ですべてを進めるという傲慢なやり方は往々にして道を誤るが、シャクルトンの不可能を可能にする統率力にぐいぐい引き込まれた。
『チョコレートの真実』は、資本主義世界の歪んだ実態と、それを解決するフェアトレードの重要性をあぶりだした一冊だ。ハーシーなどのチョコレートブランドがいかにして成立しているかというブランドストーリーを語りつつ、チョコレートの材料であるカカオを通じて搾取される人々の実態を暴く。1日1ドル以下でカカオ豆の栽培で重労働を強いられるアフリカの子どもの現実。淡々とした文体だからこそ、逆に心揺さぶられる。気鋭のカナダ人女性ジャーナリストが危険を犯して取材した気迫が伝わってくる。
スカッとした読後感を味わいたい人にお勧めなのは『七つの最高峰』だ。オヤジ2人が幾つになっても夢を追い続け、あっけらかんとそれを実現させてしまう姿に元気をもらえる。主人公は事業者ディックと、かつてのウォルト・ディズニー社長のフランクという大富豪だ。2人は世界七大陸の最高峰制覇をわずか一年間で成し遂げる。道楽登山だとの批判もあるが、普通の50代はまず思いつかないだろうし、ましてや実行しようとなど夢にも思わない計画をあっけらかんと実現させてしまうという、アメリカ的なポジティブ発想に私は力をもらえた。
不動の事実と人の行動力。感動は結局、そういうところに根を下ろしている。
成毛 眞取締役が選んだ3冊
■エンデュアランス号漂流 [著]アルフレッド・ランシング/新潮社
■チョコレートの真実 [著]キャロル・オフ/英治出版
■七つの最高峰 [著]ディック・バス、リック リッジウエイ、フランク ウェルズ/文藝春秋