極限状態に立ち向かう人間の行動力に心を動かされる

インスパイア 成毛 眞 取締役ファウンダー
1955年生まれ。アスキーなどを経て、86年マイクロソフト入社、91年社長就任。2000年インスパイア設立。

本を読まない人間とは付き合いたくないと思っているほど活字中毒の私だが、ビジネスハウツー書、成功者うんぬんといった本は読む意味がないと思う。成功とは、革新性のあることを形にして初めて成しうるものなので、他人のノウハウを真似しようとしているうちは、永遠に「その他大勢」に埋もれたままだろう。

子どもの頃から、読むだけで圧倒されるような、スケールの大きな本が好きだった。『エンデュアランス号漂流』は1915年の南極大陸横断の実話を綴ったものだ。途中で乗っていた探検帆船を手放さざるをえないという絶体絶命の危機に陥りつつ、リーダーであるシャクルトンの指揮のもと、1人の犠牲者も出さず全員が無事帰還したという話に圧倒された。隊員たちは見事なリーダーシップを発揮するシャクルトンを信じて言うとおりに動き、それが奇跡を起こした。極限状態のときに合議制は無用、大切なのは一人の果敢なリーダーシップなのだと思い知らされる。独断と偏見ですべてを進めるという傲慢なやり方は往々にして道を誤るが、シャクルトンの不可能を可能にする統率力にぐいぐい引き込まれた。

(近野ひろ美=構成 永井 浩、久保田史嗣、芳地博之=撮影)
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