突然の社長解任……理不尽な境遇すら糧にする名経営者の姿
私は、週末に行きつけの本屋に行き、新聞や雑誌の書評をもとに本を選定する。ビジネス書だけではなく、人の細やかな感性や機微を描写した小説やノンフィクション、伝記も積極的に読むことだ。そうして多くの本を読むことで、自分なりの読書スタイルが確立される。『社長の椅子が泣いている』は、ヤマハやダイエーを再生させた名経営者・河島博の評伝である。妥協を許さない経営手法でオーナーと衝突、突然ヤマハ社長を解任された河島氏は、文句ひとつ言わずに身をひいた。理不尽な現実をあるがままに受け入れ、それを次の成長の糧にする姿勢に強く胸を打たれた。
現代世相評論『最後の波の音』は、経営破綻する会社は、会社を信じている社員たちを平然と捨てていくなどと辛辣な世評をしつつ、随所に人間味あふれたエスプリが効いている。こんな人生の「生きた教科書」が、よきにつけ悪しきにつけ身の回りにあることを教えてくれる。
中国古典『呻吟語』もいい。明代の呂新吾によって書かれた処世訓集で、リーダーの資質について、また社会人としての生き方がわかる。ここから得た「治世莫先無偽。教民只是不争」、すなわち嘘をつくなという意味の言葉は、私の座右の銘の一つとして、社内外のスピーチの中でしばしば引用させてもらっている。
国際的に活躍したい人に勧めたいのは、『日本人とは何か。』だ。日本の宗教や文化を、日本の歴史を通して俯瞰的に理解できる。自国の宗教についてほとんど知らない人が多い日本人だからこそ、宗教観をしっかり理解し、海外で自分の意見を持てるようになってほしい。『吉村昭』は、私の大好きな作家の伝記である。日本芸術院賞、太宰治賞、菊池寛賞、ほかにも数々の文学賞を受賞した素晴らしい作家であった。緻密に事実を積み重ねていく地道な性格がよく表された書で、戦史小説、歴史小説、記録文学などで一時代を築いた生涯とともに、近代史の裏側も学べる。
幼いとき、母親が暇さえあれば本を読んでくれたおかげで人生が豊かになった。子供のいる部下に本について助言するなら、わが子に本を読み聞かせることの大切さも付け加えたい。
栄木憲和会長が選んだ5冊
■社長の椅子が泣いている [著]加藤 仁/講談社
■最後の波の音 [著]山本夏彦/文藝春秋
■呻吟語 [著]呂 新吾/徳間書店
■日本人とは何か [著]山本七平/祥伝社
■吉村昭 [著]川西政明/河出書房新社