作家・元外務省主任分析官
佐藤 優 

(さとう・まさる)
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。2002年、外務省背任事件で逮捕。09年、執行猶予付きで有罪確定、失職。『国家の罠』ほか著書多数。

危機の際に人間がとる行動はだいたい同じ。そのロジックを凝縮したのが哲学・宗教書だ。様々に読み替えることで、例えば今の会社がすべてという錯覚にも陥らず、腹が立つだけだった上司の言動も理解できる。

宗教の中でも仏教は数少ない無神論。特にアビダルマや唯識は理屈っぽくて哲学とも近い。『はじめての唯識』(1)は、悪とは心の作用であり、それが現実に現れるという教えの優れた入門書だ。例えば上司に殺意を覚えても、どういう心の作用によってそれが芽生えるのかがわかり、それが自分にとってもいいことではないことも理解できる。