危機の際に人間がとる行動はだいたい同じ。そのロジックを凝縮したのが哲学・宗教書だ。様々に読み替えることで、例えば今の会社がすべてという錯覚にも陥らず、腹が立つだけだった上司の言動も理解できる。
宗教の中でも仏教は数少ない無神論。特にアビダルマや唯識は理屈っぽくて哲学とも近い。『はじめての唯識』(1)は、悪とは心の作用であり、それが現実に現れるという教えの優れた入門書だ。例えば上司に殺意を覚えても、どういう心の作用によってそれが芽生えるのかがわかり、それが自分にとってもいいことではないことも理解できる。
実は、数学は厳密な学問ではない。数学を応用した物理学や経済学も同じだ。それを明らかにした『ゲーデル不完全性定理』(9)を読めば、数字に騙されることはなくなる。金融工学を盲信して大損する愚も避けられる。
哲学的発想は政治に役立つ。政治家になれなかった者が哲学者になるからだ。ヘーゲルの『精神現象学』(12)は、小沢一郎氏を理解するのに重要だ。ヘーゲル哲学の用語「エレメント」を日常語に訳すと「場」だが、小沢氏は政治の「場=エレメント」をつくることが自身の使命と考えている。
小沢氏にとって、政党とは水槽。できるだけ大きな水槽をつくり、その中で魚が泳ぐ場所を確保することに仕事と責任を限定している。小沢氏に政策を求めるのは間違いだ。