「死」を意識して初めて気がつく働くことの意味
私は社員によく本を配る。対象は全員であったり、本の内容を見て読んでほしい一部の社員であったりもする。
たとえば浅田次郎の『椿山課長の七日間』は社内の全課長に配った。働き盛りの課長が、ある日脳溢血で死んでしまうのだが、天上界のSACという組織に異議申し立てをすることで7日間だけ別の肉体を借りて生き返ることが許される。生きているときには見えなかった働くことの意味、世の中の真実を、主人公は初めて見出していく。読み終わったとき、自分は案外一生懸命生きているじゃないかと思えたし、人生は複雑ではなく単純なのだという安堵感もあった。だからこそ楽しく生きなければ損だと思った。
生きる力を与えてくれる本は中村天風の本である。代表作の『ほんとうの心の力』は、へこたれたときに適当な一頁を開いて読むと気持ちを整理することができる。私が中村天風を知ったのは20代前半の頃、都内を歩いていたとき「天風会館」を目にしたのがきっかけだった。天風の本には、何をしろとか何をするなとは一切書かれていないが、シンプルに物事の原因や考え方を教えてくれる。
最近でこそ年に何十冊も本を読むようになった私だが、若い頃は本をほとんど読まない人間だった。だから、読書が苦手だという若手社員たちの気持ちもわかる。要は取っかかりが必要なのだ。
新入社員によく配るのは、『イチローに学ぶ「天才」と言われる人間の共通点』だ。イチローは決して努力の人ではない。バッティングが好きで好きでたまらなくて球を打ち続けてきた結果、天才と言われる到達点に達した男だ。徹底的に好きであればどこまでも頑張れる。それを知ることはとても大切だと思う。
中国古典を現代に置き換えて具体的に解説した、『「成功の法則」は中国賢人の智恵にあり』も若手によく渡す。私自身、学生時代に漠然と習ったきりだった古典の真意を、この本によって解せるようになった。実生活での様々なシーンで応用もできるし、何度読んでも心に響く。
話題のベストセラー本でお勧めなのは『夢をかなえるゾウ』だ。冴えないサラリーマンのもとに「ガネーシャ」が現れて夢をかなえるための奇妙な課題を出していくという内容だが、軽快な文章の中に、人生において大切なエッセンスが上手にちりばめられており、読み終えるのが惜しいと思えたほどだった。
どの本が一番感動するかは人それぞれだが、たまたま出合った本や、そこに書いてあるワンフレーズが人生を変えることがある。そんな出合いがあるからこそ、本は読み続ける価値があるのだ。
Eストアー 石村賢一代表が選んだ5冊
■椿山課長の七日間 [著]浅田次郎/朝日新聞社
■ほんとうの心の力 [著]中村天風/PHP研究所
■イチローに学ぶ「天才」と言われる人間の共通点 [著]児玉光雄/河出書房新社
■「成功の法則」は中国賢人の智恵にあり [著]植西 聡/廣済堂出版
■夢をかなえるゾウ [著]水野敬也/飛鳥新社