かつて日本には、熱き「志」と「気概」を胸に秘め、敢然と国外へ飛び出し、世界的な大企業に成長させた優れた経営者たちがいた。松下幸之助、本田宗一郎、川上源一、盛田昭夫……。日本を変えた男たちから、いま学ぶべきこととは何か。

その名を世界中に轟かせた
日本のエクセレントカンパニー

戦後の復興から高度成長へ、さらに加工貿易立国として日本経済が一世を風靡した1980年代中頃まで、日本企業は日本的経営という切れ味抜群の脇差し片手に世界に切り込んでいった。今日のトヨタやホンダ、キヤノン、ソニー、パナソニック、シャープ……日本発のグローバル企業が続々と台頭した時代だ。

たとえば、ソニーの盛田昭夫さん。アメリカ的経営を批判し、日本的経営の素晴らしさを世界中に語って聴衆を感動させた、日本の企業人の鮮烈な印象が私にはある。だから最近の日本のビジネスマンを見ていると、日本人の能力が劣化しているように思えてならない。あれから20年以上が経過したというのに、世界に冠たる日本企業の顔ぶれが一向に代わり映えしないからだ。

アメリカでは、シスコシステムズやグーグルのような新しい会社が続々と生まれて、グローバル企業へと成長している。実際のところ、過去5年・成長率が100%以上の会社をビジネスウィーク誌が発表していて、毎年、結構な数に上る。

しかし日本では、ホリエモンこと堀江貴文氏のライブドア然り、村上ファンド然り、グッドウィル然りと、線香花火のようなものばかり。ソフトバンクもしょせんはアメリカの本家を時間差を置いて模倣したビジネス(孫正義社長言うところのタイムマシン経営)にすぎず、今やかなりのCDSリスクプレミアムが付くようになっている。今年の春先まで「成長率100%」「給料日本一」と言われたアーバンコーポレイションに至っては、最早潰れてしまっている。

デンソーやアイシン精機などの自動車部品メーカーを成功事例に挙げる人もいるかもしれないが、昔からある企業が自動車メーカーのグローバル化に引っ張られて並び称されるようになっただけの話で、立派な会社ではあるがニュー・ストーリー(新たに生まれた成功物語)ではない。

金融機関も90年代のビッグバンと金融危機を経て合併・集約され、新しく看板をかけ替えたところもある。しかし実態は足し算をして規模が巨大化しただけで、世界で勝負する経営能力を身につけたわけではない。実際、三菱東京UFJ銀行はモルガン・スタンレーを買収する千載一遇のチャンスを得たものの、最後の最後で損失計上しなくても済む優先株の取得に日和ったため、1兆円近くを出資しながら経営権を握れなかった。2年間の高給保証でリーマン・ブラザーズの人材を買った野村証券にしても、高級ホテルのスイートルームで雨宿りをさせるようなもので、2年経ったらボーナスを払って逃げ出されるのが関の山だろう。

要は、世界を相手にできる経営力が備わっていないのだ。生保など図体の大きい会社はあるが全部内弁慶。リクルートも国内ではガリバー企業だが、同種の人材斡旋で年商4兆~5兆円クラスは世界に数社あり、トップ5にも入らない。

結局、20年前にグローバル化を果たし「世界に冠たる日本の企業」と言われた会社がますます強くなり、今日においてもグローバルなポジションを維持している。それはそれで立派なことに違いないが、「失われた15年」と日本経済が評されるように、以降に生まれた後進企業のほとんどはグローバル化できていないのが現状だ。