スーツでスキージャンプを飛ぶ謎の男
動画は、長野県飯山のスキージャンプ台の前に立つ、スーツ姿の男性の挨拶から始まる。
「本日は、オーダースーツSADAのスーツの耐久性と運動性を確認するために、スキージャンプを飛びにまいりました」
しわ一つないスーツにネクタイを締めた男性が、青いヘルメットをかぶり、右脇にスキー板を抱えているという、強烈な違和感。
ミディアムヒル45メートル地点に設置されたスタートバーに座り、男性はレーンにスキー板を乗せる。カメラが映すスーツの背中越しに、着地点がはるか遠くに見えた。高所恐怖症でない人でさえ、目をそらしたくなる高さだ。
「ジャンプ行きまーす!」
彼は片手を上げ、迷いもせずにバーから手を放した。両腕を後方へ水平に伸ばして腰をかがめ、坂を滑っていく。そしてスキー板をV字型に開く美しいフォームでジャンプ。……数秒後、着地に失敗してスーツ姿のまま豪快に転倒し、坂を滑り落ちていった。しかし視聴者が息をのむ暇もなく立ち上がり、笑顔で決め台詞を吐く。
「SADAのオーダースーツは、スキージャンプで転倒しても、大丈夫!」
1923年から100年続く「オーダースーツSADA」の4代目社長、佐田展隆さん(49)の個人YouTubeチャンネルには、佐田さんが富士登山や東京マラソン、そしてモンブラン登頂まで、スーツ姿で挑戦する動画がアップロードされている。スキージャンプ動画の再生回数は、12万回を超えている。
実はこの社長、負債25億円の企業を二度もV字回復させ、2023年には年商35億円を超える企業にまで成長させた張本人なのだ。
社員に突き上げられて始めたYouTube
YouTube活動を始めたきっかけは、アメリカのミキサーメーカーBlendtec社の動画を見たことだった。社長自らが出演してスマートフォンやゴルフボールなどをミキサーで粉砕する動画は大きな話題を集め、特にiPadを粉砕した動画は2000万回近く再生されている。