スーツ姿での登山やスキーをウリにするYouTuber社長がいる。オーダースーツ店の4代目社長・佐田展隆さんは、2013年にチャンネル「さだ社長」を開設し、自社製のスーツを着て富士山に登ったり、フルマラソンを完走したりする動画を投稿し続けている。佐田さんはなぜYouTuberになったのか。フリーライターの宮﨑まきこさんが取材した――。
佐田展隆社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
オーダースーツ店の4代目社長・佐田展隆さん

スーツでスキージャンプを飛ぶ謎の男

動画は、長野県飯山のスキージャンプ台の前に立つ、スーツ姿の男性の挨拶から始まる。

「本日は、オーダースーツSADAのスーツの耐久性と運動性を確認するために、スキージャンプを飛びにまいりました」

しわ一つないスーツにネクタイを締めた男性が、青いヘルメットをかぶり、右脇にスキー板を抱えているという、強烈な違和感。

ミディアムヒル45メートル地点に設置されたスタートバーに座り、男性はレーンにスキー板を乗せる。カメラが映すスーツの背中越しに、着地点がはるか遠くに見えた。高所恐怖症でない人でさえ、目をそらしたくなる高さだ。

「ジャンプ行きまーす!」

彼は片手を上げ、迷いもせずにバーから手を放した。両腕を後方へ水平に伸ばして腰をかがめ、坂を滑っていく。そしてスキー板をV字型に開く美しいフォームでジャンプ。……数秒後、着地に失敗してスーツ姿のまま豪快に転倒し、坂を滑り落ちていった。しかし視聴者が息をのむ暇もなく立ち上がり、笑顔で決め台詞を吐く。

「SADAのオーダースーツは、スキージャンプで転倒しても、大丈夫!」

1923年から100年続く「オーダースーツSADA」の4代目社長、佐田展隆のぶたかさん(49)の個人YouTubeチャンネルには、佐田さんが富士登山や東京マラソン、そしてモンブラン登頂まで、スーツ姿で挑戦する動画がアップロードされている。スキージャンプ動画の再生回数は、12万回を超えている。

実はこの社長、負債25億円の企業を二度もV字回復させ、2023年には年商35億円を超える企業にまで成長させた張本人なのだ。

スキージャンプ動画のキャプチャ
YouTubeチャンネル「さだ社長」より
ジャンプへの意気込みを語る佐田さん

社員に突き上げられて始めたYouTube

YouTube活動を始めたきっかけは、アメリカのミキサーメーカーBlendtec社の動画を見たことだった。社長自らが出演してスマートフォンやゴルフボールなどをミキサーで粉砕する動画は大きな話題を集め、特にiPadを粉砕した動画は2000万回近く再生されている。