2013年、広告費をかけずになんとか「オーダースーツSADA」を知ってもらおうと模索していたとき、社員から提案されたのがYouTubeだった。
「私はYouTubeで広告なんて、思いつきもしませんでした。でも社員から『社長が自社商品でおもしろいことをやるとバズるらしい』と言われましてね。『社長がやらないと意味がないんです』と」
YouTubeなら、誰でも無料で動画をあげられる。動画がバズれば大きな宣伝効果になるだろう。そこで出た案が、「オーダースーツで富士登山」だった。
「当時、富士山が世界遺産に登録されて話題になっていました。私自身山登りが趣味で、日本百名山のうち日本アルプスの山はすべて踏破しています。『富士山なんて、サンダルでも登れる山だ』なんて言ってたのを逆手に取られましてね、革靴を履かされて、ビジネスバッグまで持たされちゃいましたよ」と、冗談めかして笑う。
「ほら、ガチャピンも飛んでますよ」
2013年富士登山から始まった挑戦は、徐々にエスカレートしていく。大学時代スキー・ノルディック複合の選手だったと知る社員から、今度はこんな提案が出た。
「社長、スーツでスキージャンプ飛んでくださいよ」
大学卒業以来15年間飛んでいないからと渋ると、社員から「ほら、ガチャピンも飛んでますよ」と動画を見せられた。普段から体力自慢、運動能力の高さを自慢しているだけに、後には引けない。
「まあ、ガチャピンが飛んでるなら、大丈夫か」
東京マラソンでは抽選には落ちたものの、チャリティ募金をして自費でエントリー。スーツに革靴で42.195kmを走るという暴挙にチャレンジした。マラソン用のクッション性の高いシューズで走っても足の負担は避けられないというのに、固い革靴で走って大丈夫だったのか。
「骨と筋は大丈夫でしたよ」
「スーツで挑戦動画」はエスカレートし、遂にヨーロッパアルプス最高峰、モンブランのスーツ登山へ。さすがにこれは無理だろうと現地に確認してみると……。
「現地の方が、昔の人はみんなスーツにネクタイで登ってたって言うんです。やはりスーツは相手に対する最上級の敬意なんですね」
フルマラソンを完走しても、モンブランに登頂しても、スキーで豪快な転倒を見せた後でさえ、佐田さんは言う。
「見てください。このままビジネスミーティングに行けるクオリティを保っていると、思いませんか?」
どんなに無茶な挑戦の後でも律儀に自社製品を宣伝する彼の真面目さが受け、2023年6月にはテレビ朝日系バラエティ番組「激レアさんを連れてきた」でも紹介された。
ビジネスミーティングの場所を間違え続ける男・佐田展隆は、どんな人生を歩んできたのか。