短期的な方向性は見えるが…
第三が、イスラエル、アメリカ、そしてアラブ諸国の国内世論の情勢である。イスラエルとアメリカの国内世論は、少なくとも当面は、右派的な路線から動くことはないだろう。アラブ諸国の権威主義体制が大きく揺らぐ兆しも見られない。だがいずれの場合にも、国内世論は一枚岩ではない。
ネタニヤフ首相は、非常に脆弱な政権基盤の上でようやく成立している。アメリカの国内世論は2極分裂の傾向を強め続けており、トランプ第2次政権の中東政策は、その傾向を強めるものになる恐れがある。アラブ諸国の権威主義体制は、「アラブの春」で噴出した民衆の不満を、強権体制で封じ込めているだけだ。それぞれの国内における反対勢力の勢いが高まるならば、当然のことながら外交政策も円滑には進められない。
第一のイスラエルの軍事作戦、第二のイランの孤立と欧米諸国の優位、第三のイスラエル/アメリカの国内世論の右傾化とアラブ諸国の権威主義体制の国内情勢の継続は、いずれも短期的には見込みの高い路線である。しかし長期的に持続可能性があるのかどうかについては、かなり疑わしい、と見ざるを得ない要素が多々ある。「ガザ危機」は、地域情勢の流動化をもたらしかねない大きな要素だ。
バイデン大統領よりわずかに若いだけで、当選の暁には、やはり大統領在職中に80歳を迎えるトランプ大統領だ。彼の政策が、極めて近視眼的であり、長期的視野に立った洞察に欠けるものになる可能性は、大いにある。