トランプの「取引」が成立する条件
この「アブラハム合意」における「取引」を、第2次トランプ政権も踏襲できるか、あるいはそれが何らかの成果をもたらすかは、幾つかの条件が達成できるかどうかにかかっている。
第一が、イスラエルのハマス掃討軍事作戦の成功だ。もしイスラエルがハマスの撲滅に成功し、さらには残ったパレスチナ人勢力の穏健化にも成功するのであれば、「アブラハム合意」路線は、イスラエル圧倒的優位の現実を追認する政策としての重みをもってくる。
とはいえ、この原稿を書いている2024年3月の段階で、この見込みの行方は全く不透明だ。イスラエルは約5カ月にわたって大々的な軍事作戦をガザにおいて行ってきているが、成果は芳しくない。民政施設と市民の犠牲だけが累積し、人質の解放やハマス指導者層の掃討に目立った戦績をあげることができていない。いわば非武装のガザの人々に力を誇示するパフォーマンスに終始するだけで、ハマス掃討という実質的な成果を見せられていないのである。これでは「アブラハム合意」の路線が復活する見通しが立たない。
もちろんイスラエル政府は戦果を出すために、今後も頑なに軍事攻撃を続けるだろう。だが5カ月の間、ハマスの側が座してその瞬間を黙って待っていたとも思えない。イスラエルがどのような形で軍事作戦を終了させるのか、あるいは終了させることができない状態に陥るのか、形式的な終了宣言は出しても戦果はもちろん事態の解決が見いだされない泥沼に陥っていくのかは、まだ予断を許さない状況だ。少なくとも、ガザ攻撃開始当初のイスラエル側の楽観論は、消えている。
第2が、国際的なイラン包囲網の強化の是非である。イランの脅威を強調し、アラブ諸国がそれに同調してくる限り、イスラエルは周辺諸国との一定程度以上の安定的な関係を維持することができる。
しかし国際世論は、パレスチナに同情的である。イランはイスラエルとの直接的対決を避けながら、親パレスチナの行動に出ているレバノンのヒズボラやイエメンのフーシー派の後ろ盾としての存在感を強めている。現状では、イランよりも、イスラエルのほうが、国際秩序をかく乱する要素になっている。