「岸田さんは危機管理には適さない首相」

――岸田政権は今、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金問題も抱えています。

派閥政治ばかりやっていて、裏金問題で頭がいっぱいだったのでしょう。思えば私の政権の時も、いろいろな政治的な問題がありました。

――震災の前年(2010年)夏の参院選で敗れて「ねじれ国会」となり、党内では小沢一郎さんとの対立など、政権運営に苦慮されていましたね。そんな中であの震災が起きました。

政治的な駆け引きと、自然災害や原発事故のような(非常事態の)問題は、当然ですが次元が違います。国民が生命や財産の被害を受けそうだという時に政治が何をすべきか、ということは(平時とは)次元の違う形で考えなければいけない。それは首相の仕事ですが、そういうことへの感性が感じられないのです。危機管理には適さない首相だと思います。

菅直人氏
筆者撮影
菅直人氏

東電社員に「命をかけろ」と言った意味

――原発事故発生から4日後の3月15日、菅さんは東電本店に乗り込み、原発からの「撤退はあり得ない」と社員に向けて演説しました。「逃げても逃げられない。命をかけてください」と。あれは衝撃でした。「市民派」政治家の菅さんが首相となり、結果として戦後の首相として初めて、国民に対し「国のため命をかけろ」と言わなければいけなくなった。振り返ってあの発言をどう思いますか。

感覚は全く変わっていません。

首相という立場の人間が、いや、政治家全体もそうですが、「命をかける」などという言葉を中途半端に口に出すべきではありません。これは震災の前も震災当時も、もちろん今もそう考えています。

しかし、福島原発事故は、極論すれば日本の半分が壊滅しかねないような事故だったことが、後でわかってくるわけです。相当のリスクがあったとしても、対応できる部隊に対応を指示するしかありません。その最大の存在が自衛隊です。

1986年のチェルノブイリ(チョルノービリ)原発事故で、当時のソ連は多くの人が亡くなる可能性があるのを承知で、現地に人をどんどん送って事故に対応しました。少なくともある種の職業には、そういう役割が求められることがあります。

大勢の国民の命を助けるために、多少のリスクや危険性があっても、そのリスクに耐えるトレーニングを受けている人がいるのなら、その人たちに頑張ってもらわなければなりません。あの時はそういうギリギリの場面でした。