「国防がおろそかになる」批判は的外れ
――自衛隊10万人体制については、当時野党だった自民党から「国防がおろそかになる」などの批判がありました。
ヘリで上空を視察した時、被害の大きさが想像できました。だから、北澤防衛相と連携して、自衛隊の最大限の動員を目指したのです。震災では現実に多くの人が亡くなりました。自衛隊10万人派遣について「(規模が)大き過ぎた」というのは、的外れな批判だと思います。
防衛とは1年365日、一定のレベルの警戒心を常に持っている必要があります。しかし、大震災や原発事故などの緊急事態が現実に起きた時、平時とは違う形での大規模な自衛隊派遣が必要だと考えれば、それを決断する。それが首相や防衛相の責任です。
小規模な災害であれば、全国の消防や警察から人材を集めることもできますが、召集には時間がかかります。自衛隊は国の組織なので、首相や防衛相の命令で、指揮下にある何十万の隊員を動かすことができます。
それに、自衛隊は戦争という最大の危機に備える組織。飛行機でもヘリコプターでも自動車でも、大規模災害に即応できるさまざまな移動手段や装備を持っています。
あの時は、私の判断と北澤防衛相の判断が一致したこともあり、自衛隊には非常によく動いてもらったと思います。
岸田首相の能登半島地震の初動対応
――元日に発生した能登半島地震では、初動対応について「自衛隊派遣の規模が小さかった」との指摘があります。
現政権のことをあまり言いたくはありませんが、岸田文雄首相が官邸の執務室で1人で座って対応していたのなら、私の感覚とは全然違います。
――被災地が半島だったため「早期の現地入りが難しかった」との声もあります。
「行けるか、行けないか」ではありません。首相が「これは大変なことだ」と思って、自分の目で被害状況を「見たいと思うか、思わないか」なのです。たとえ何が起きていようが、首相が「行く」と言えば、自衛隊は動きます。
現在の状況は平時を超えています。トップが現場を見て、判断できることは自分で判断しなければいけないのに、岸田首相は何もしていません。
道路が寸断されたのなら、ヘリコプターで上空を飛べばいい。自分で現場を見て「これは大変だ」と思うか、上がってくる情報を待っているかで、2日後、3日後の対応は違ってきます。危機の時にはその2日、3日の差が非常に大きい。岸田首相にはその意識が足りなさすぎます。
原発事故のような非常時には、自衛隊や、場合によっては米軍にも、大きな範囲で動員を求めることが必要になります。そういう「大きな判断」をするためにも、首相が早い段階で、上空からでも被害状況を確認すべきだったと思います。