内部では外務省と警察庁の主導権争い

同ユニットは「中東班」「南アジア班」「東南アジア班」「北・西アフリカ班」の4つの班で発足し、後に「欧州班」が追加された。それぞれ在外の日本大使館にスタッフを常駐させ、出先国の情報機関との接触を日常的に図るととともに、日本の本部でも国際テロの情報を総括的に分析している。

ただ、日本の「霞が関」の面倒なところは、政府内に新たな組織を編成する時に、しばしば省庁間で主導権争いになることだ。この国際テロ情報収集ユニットは約90名の陣容で発足したが、メンバーをみると、外務省と警察庁がそれぞれ約4割を出し、残りを内閣情報調査室プロパー、防衛省、公安調査庁、海上保安庁、出入国在留管理庁が出している。

また、同ユニットから在外公館に派遣される要員も、警察庁と外務省でほぼ同数を割り振り、残りを他省庁出向者で分けるように調整されているようだ。このように、明らかに外務省と警察庁の主導権争いの構造になっているのである。

結局、同ユニットは外務省総合外交政策局に置くが、ユニット長は警察官僚ポストとなった。そして、実際には内閣情報官の統括で、内閣官房が指揮する。つまり警察庁と外務省のバランスが配慮された組織になったのだ。今後、もしも新たな情報機関設置の議論が進んだとしても、この省庁間の主導権をめぐる問題はついて回るだろう。

左:国家公安委員会/右:外務省
左写真=iStock.com/y-studio/右写真=iStock.com/y-studio
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強い政治的リーダーシップが必要だが…

なぜ日本では情報機関を作ることできないのか、を考えてみたい。

ひとつには、前述したように、各省庁の主導権をめぐる問題がある。冷戦時代から政府の対外情報活動をめぐっては、外務省、警察庁、防衛省(防衛庁)、公安調査庁の確執があった。新たな活動を始める時、新たな組織や部門を作る時、どこが主導権を握るかで互いに牽制し合うのだ。

そうした省庁間バランスの問題は国際テロ情報収集ユニットの件でもみられたように、現在も残っている。政府に新たな組織を作るとなれば、もちろん大きな予算編成も必要で、そこは財務省を中心に抵抗もあるだろう。

筆者は日本政府の安全保障やインテリジェンス部門の関係者とこうした議論をしたことが何度かあるが、情報機構の強化にはほぼ誰もが賛成するが、それをどうやるかでは各人の考えはかなり違うという印象を持っている。

実際には、そうした省庁間の垣根を取り払う強い政治的リーダーシップが必要になるが、それもあまり期待できない。そのため、専門の情報機関の創設は日本では「どうせ無理だろう」と考えている人は、筆者の知るかぎりでも、多い。