外務省と内閣官房に2つの組織が同時創設

その後、2012年に発足して長期政権となった第2次安倍政権は、政治的に難しい情報機関創設には手を付けなかったが、情報活動の強化を進めた。2013年には機密情報を保全するための特定秘密保護法を成立させ、翌年、施行した。

2015年には内閣情報官の統括下に内閣官房国際テロ情報集約室、外務省に国際テロ情報収集ユニットを創設し、2018年には国際テロ情報集約室に国際テロ対策等情報共有センターを創設した。

このように安倍政権では、いろいろと面倒な手順が必要な独立組織の新設は後回しにし、それより既存の制度の積み増しで実質的な情報機能強化を実現した。2021年4月、首相を退いた安倍氏がYouTube番組に出演した際に「情報機関を作るべき」と提案したのは、こうした経緯のうえでの発言だった。

2015年12月に同時に創設された外務省の国際テロ情報収集ユニットと、内閣官房の国際テロ情報集約室は、まさに日本の情報機関の萌芽のような組織でもある。その意味では日本政府の情報機構改革では画期的なことでもあった。これも振り返れば、前回の第1次安倍政権での情報機構強化改革のスタートから10年弱後のことだ。

最も情報機関に近い「国際テロ情報収集ユニット」

内閣官房の国際テロ情報集約室は、官邸幹部や各省庁、諸外国との調整などを統括するが、実際には、情報の集約と分析は外務省総合外交政策局の国際テロ情報収集ユニットが行う。ところが、実は同ユニットのスタッフは内閣官房テロ情報集約室員の身分も兼務しており、実際には首相官邸が直轄している。

内閣官房テロ情報集約室員の建前上の室長は内閣官房副長官だが、実質的には室長代理である内閣情報官が統括している。つまり、内閣官房の内閣情報調査室が中心になって、組織上は外務省に置かれた新規の情報セクションを動かしているのだ。

この国際テロ情報収集ユニットは、2014年にシリアで日本人2名が拉致された事件を契機に、イスラム系テロの脅威が日本国内でも注目されたことがきっかけで、2016年の伊勢志摩サミットや2020年予定だった東京五輪への警戒が至上命題とされたなかで創設された。

それまでの日本政府には、米国CIAなどのような長年のパートナーの場合は内閣情報官とのルートもあるが、テロ情報は米国からのものだけでは不充分だ。とくにテロ容疑者が活動している中東や南アジアなどの国々の情報機関と関係を作れば、米国経由以外の情報も入手できる。その価値は非常に大きい。

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