なぜ『スーパーマリオブラザーズ』は破格のヒットゲームになったのか。東京大学大学院教授でゲーム研究が専門の吉田寛さんは「プレイヤーがやるべきことが、誰でも画面を見ればすぐに分かるように直感的にデザインされている」という――。

※本稿は、吉田寛『東京大学で教わるゲーム学入門』(世界文化社)の一部を再編集したものです。

「スーパーマリオ」の壁画
写真=共同通信イメージズ
京都市の地下道に描かれた「スーパーマリオ」の壁画=2026年5月8日午後

初めてでも直感的に操作できる

タイトル:『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂、ファミリーコンピュータ、1985年9月)

『スーパーマリオブラザーズ』(以下、『スーパーマリオ』と略記)の優れた点は、スクロールや大型キャラクターなどの画面表示の技術だけではありません。開発を率いた宮本茂は後年のインタビューで、「ユーザーが触っているだけでもインタラクティブ(双方向的)で楽しいゲーム」「触っているだけでうれしくなり、何度も触りたくなるゲーム」を作りたかった、「ルール」や「ストーリー」は後回しでよかった、と振り返っています。

また「ゲームを作るときに、まずは何から考え始めるか?」という質問に対して、彼は「手触り」や「操作感」だと答えています。「画面の中で何かが動いて、それを自分が操作したら面白いのではないかと、手触りをもとに連想していく」と彼は言います。

宮本がいう「手触り」や「操作感」とは、ゲームがプレイヤーに与える身体感覚や、画面内のキャラクターとプレイヤーの自然な一体感を指しています。『スーパーマリオ』は、コントローラーやボタンの操作がプレイヤーの手や指にすんなり馴染むことや、初めて遊ぶプレイヤーでも操作方法が直感的に分かることを重視して設計されています。玩具メーカーとしての任天堂の強みが発揮された結果ともいえます。

「Bダッシュジャンプ」の快感

ファミコンのコントローラーには十字キー(十字型の方向ボタン)とAとBの二つのボタンが付いていますが、『スーパーマリオ』はこれらのキーとボタンの使用方法が斬新かつ絶妙でした。そのもっともよい例が「Bダッシュジャンプ」です。

「スーパーマリオ実験仕様」の段階では、十字キーの上方向に「ジャンプ」が割り当てられ、Aボタンは「アタック(道具による)」、Bボタンは「ラン(加速)」と設定されていました。これは『スーパーマリオ』と並行して開発されたファミコン版『スパルタンX』の操作方法に類似しています。そこでは、十字キーの上方向にジャンプ、Aボタンにパンチ、Bボタンにキックが割り当てられていました。

宮本によれば、ジャンプの操作方法が十字キーの上方向からAボタンへと変更されたのは、「Bダッシュジャンプ」のやりやすさを考慮した結果でした。「Bダッシュジャンプ」とは、Bボタンを押してダッシュをしながら(加速度を付けて)Aボタンでジャンプをすると、通常よりも高く、そして遠くまでジャンプできるというテクニックです。少々コツが要りますが、ゲームを進めるうえでしばしば必要になります。

そして「Bダッシュジャンプ」をするためには、プレイヤーは通常、右手の「親指の先」でBボタンを押したまま、タイミングを見計らって「親指の腹」でAボタンを押すことになります。このように「1本の指で2つのボタンを押す」ことで発動する「Bダッシュジャンプ」は、他のゲームでは味わえない、まさしく『スーパーマリオ』ならではの身体感覚です。それが思い通りに決まったときの快感は何とも言えません。

もちろん言うまでもなく、その絶妙な感覚は、2つのボタンの距離、ボタンを押す強さやタイミング、標準的なプレイヤーの手の大きさや指の長さといった、すべてが緻密に計算された結果、生み出されているのです。