説明書を読まなくても適切にふるまえる
認知心理学の用語を使うなら、『スーパーマリオ』は「アフォーダンス」を上手に活用しているといえます。アフォーダンスとは「環境が動物に対して与える行為の機会や可能性」を指す語で、この語を提唱したJ・J・ギブソンは、水平で平坦で堅い材質からなる面は、ヒトに対して、そこで「立つ」ことや「歩く」ことをアフォード(提供)する、膝くらいの高さにある面は、同様にそこで「座る」ことをアフォード(提供)する、といった例をあげています(『生態学的視覚論』、1979年)。
ギブソンによれば、アフォーダンスは「学習」をしなくても環境から「直接的に知覚」されます。『スーパーマリオ』のルールが分かりやすい理由も、これと同じように説明できるでしょう。プレイヤーの行為の手がかりとなる情報は、すべて環境(この場合はゲームの画面やサウンド)からアフォード(提供)されるため、ゲームの経験や知識がない人、あるいは説明書を読まない人でも、すぐにゲームの世界にとけこんで、適切なふるまいができるのです。
無理なく段階的に上達できる設計
また多くのプレイヤーに遊んでもらうためには、ルールの分かりやすさだけでなく、難易度の設計も重要です。『スーパーマリオ』は、初心者でも無理なく少しずつ上達できるように巧みに設計されています。「ひとつのネタがあったら必ずそれを覚える場所、実際遊ぶ場所、応用する場所、極める場所があるからひとつのアイデアを4回くらいは使える」と宮本は言っています。
このゲームは、高いところまで跳ぶ、広い穴を飛び越える、狭い足場に着地するといったさまざまなアクションをプレイヤーに要求しますが、プレイヤーはゲームを遊びながら、ごく自然に、それらを覚え、実践し、応用し、極める機会を与えられ、無理なく段階的に上達できるのです。
『スーパーマリオ』の巧みな難易度設計を象徴するのが、最初のステージ(ワールド1-エリア1)です。すべてのプレイヤーが初めに出会うこのステージでは、マリオが跳び越えなくてはならない土管の高さが少しずつ高くなります。また落とし穴は、幅が次第に拡がり、周囲に障害物が追加されます。プレイヤーが少しずつ着実に技術を向上させて、より高度な課題に自然に挑戦できるように、段階的に難しくしているのです。
またその他にも、ボーナスステージにつながるワープ土管、1UPキノコが出てくる隠しブロックなど、このゲームの基本的な仕組みが凝縮されており、この最初のステージ全体が「チュートリアル」(基本的操作方法を説明する部分)の機能を果たしているともいえます。

