経産省と自民党商工族が画策
そんな中、2023年秋、唐突にNTTが密かに期待していたNTT法廃止問題が浮上した。
政府は22年暮れ、向こう5年間で防衛費の総額を約43兆円にまで大幅増額し財源として増税を断行する方針を打ち出したが、これを受けて、財源を検討する自民党の特命委員会が、高まる増税への反発をかわそうと目をつけたのがNTT株だった。政府が保有するNTT株は約5兆円相当で、売却が実現すれば貴重な財源となりうる。
NTT株の売却案を主導したのは、特命委員会トップの萩生田光一・政調会長(当時、元経済産業相)だった。特命委は6月に提言をまとめたが、その中に、シレッと「完全民営化の選択肢も含め、NTT法のあり方について速やかに検討すべき」との文言を盛り込んでいた。
8月になると、特命委の下に、NTT法廃止が持論の甘利明・元経産相を座長とする「NTT法の在り方に関するプロジェクトチーム(PT)」が立ち上がり、NTT改革が俎上に載ることになったが、議論はNTT法改正を飛び越えて一気にNTT法廃止にまで進んでしまった。知恵袋は、安倍晋三元首相の秘書官で経産省から転じたNTT副社長といわれる。NTT法廃止論は、経産省―自民党商工族ラインが画策した「大NTT」復活ストーリーに映った。
降って湧いたNTT法廃止問題に、通信業界はもとより、総務省や自民党内も蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
NTTvs.オール通信業界の構図で対立エスカレート
ライバルの通信各社は、一斉に反発、廃止反対の大合唱が起きた。
とりわけ、焦点となったのは、NTTが電電公社から引き継いだ通信網や局舎・電柱・管路などの「特別な資産」を保有したままでNTT法を廃止すれば、公正競争が歪められかねないという主張だ。
KDDIなどによると、特別な資産とは、電電公社時代の30年間で約25兆円に上り、現在の価値で40兆円以上と試算されている。土地は約17.3平方キロメートル、局舎は約7000ビル、洞道約650km、管路は約60万km、電柱約1190万本、光ファイバーは約110万kmとなっている。競争事業者が「構築し得ない」規模で、通信の黎明期から築き上げた国民の財産だ(昨年10月19日の記者会見による)。
KDDIの高橋誠社長は「NTTグループの統合や一体化の抑止のためにNTT法は必要。今の段階での廃止は非常に疑問だ。資本分離も含めて議論すべき」と、通信インフラを切り離すNTT解体論にまで踏み込んだ。
ソフトバンクの宮川潤一社長も「NTT法を廃止するなら、NTTが受け継いだ電柱などの公共資産はすべて国に返還するべき。一切引くつもりはない」と全面対決の強硬姿勢を示した。