「二段階作戦」の採用は、NTT法廃止がすんなりと進まなかったことの裏返しでもある。何より、一連のNTT問題の発端となったNTT株の売却問題は、肝心の防衛費の財源をめぐる議論が先送りされたため、知らぬ間にフェードアウトしてしまった。

提言では、政府によるNTT株の保有義務は撤廃すると明記したものの、経済安全保障の観点から売却の是非は「政策的な判断に委ねる」とし、さらに売却益について防衛費との関連にはまったく触れなかった。

一連のNTT法廃止をめぐる議論は、防衛費の財源問題に端を発しているだけに、あまりにも筋が悪い。「国際競争力の強化」や「公正な競争環境の確保」などのテーマは後付けでしかなく、議論は生煮えのままだ。

防衛費の財源論議が立ち消えになった以上、NTT法廃止の議論も、もはや打ち止めにすべきだろう。

NTTの資産は、NTTだけのものではない

今後、NTT改革をめぐる議論の舞台は、総務省の有識者会議に移る。

1月に入って、「公正競争」「ユニバーサルサービス」「経済安全保障」の三つの作業部会を設けて議論を始め、PTの提言も踏まえて、今夏にも答申をとりまとめる予定だ。

だが、鈴木淳司・前総務相が11月に「NTT法は廃止ありきではない」と語ったように、もともと総務省は抜本的見直しに慎重で、いまひとつ本気度が伝わってこない。有識者の間でも「NTT法の抜本的改正は必要だが、直ちに全部廃止してしまうのは妥当ではない」という空気が強い。

NTTのロゴマークが見えるマンホールカバー
写真=iStock.com/Phurinee
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情報通信行政を長く担ってきた総務省OBは、冷静な分析をする。

NTTは、電電公社以来の通信の基幹インフラを支配しているのだから、KDDIやソフトバンクとはまったく事情が異なる。完全民営化してインフラを自由に使えるようにしろというのは、おかしな話。経済安全保障の観点からみても問題で、法律を超えて政治判断で国策を決められる米国のようにはいかないという。

1月にハワイで開かれた太平洋電気通信協議会(PTC)の年次総会では、海底ケーブルやデータセンターの経済安全保障が大きなテーマとなったが、そのもっとも重要なボトルネックである基幹インフラを一民間企業になったNTTが牛耳る未来図は、摩訶不思議としかいいようがない。NTTの資産は、NTTだけのものではないのだ。

NTTの将来像にとどまらず、情報通信市場全体の将来像を描く視点に立って、議論を再出発させてほしいと願わずにはいられない。

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