EUでは「住宅の燃費」を考えるのは当たり前
住宅の燃費やランニングコストのことを伝えると「考えたこともなかった」という方が大勢います。そういう人でも、普段、車や家電を購入する際には、燃費や省エネ性能を意識しているはずです。車や家電よりはるかに高価で、長い時間を過ごす住宅の燃費性能を、多くの人が考える機会がなかった理由はなぜでしょうか。
EU(欧州連合)では、住宅の燃費性能の表示制度を設けることが義務づけられています。日本で言えば、家電製品に省エネ性能ラベルが付いていますが、それと同様です。不動産屋さんにも、街中の広告にも、駅徒歩○○分、3LDKなどといった情報とともに、住宅の燃費が記されています。
EU全土で採用されている燃費性能表示に、「エネルギーパス」という証明書があります。エネルギーパスの指標は、年間を通して快適な室内温度を保つために必要なエネルギー量を、「床面積1m2あたり○○kWh(キロワットアワー)」という形で数値化しています。このように共通のものさしで燃費を表示することで、誰もが容易に断熱性能を確認することができるのです。
消費者はその情報を、家を借りたり買ったりする際の重要な要件のひとつと考えています。日本では共通のものさしで住宅の燃費性能を示す義務がありません。そのため、各社が独自の基準を設けてアピールしてきましたが、消費者からするとどちらの性能が優れているのか、判断するのが容易ではありませんでした。
「リフォームすればいい」という発想になっている
日本で住宅の燃費の共通のものさしをつくろうと考え、「日本エネルギーパス協会」を設立した今泉太爾さんはこのように言います。
「日本では住宅の価値は築年数で決まりますが、エネルギーパスが義務づけられているEUでは、家の燃費が重視されています。そのため、燃費の悪い家は賃料や販売価格が割安になります。そこで家の貸し手やつくり手は、家の価値を高めようと、燃費向上に熱心になります。日本でも共通のものさしが一般の人に広まることはとても重要です」
日本ではこれまで、住宅を購入するために長期の住宅ローンを組むのが当たり前でした。しかし、35年ローンを払い終わる頃には老朽化して、住み続けるためにはもう一軒建てるくらいの投資が必要となります。また、各世代が35年ローンを組んで、同じことを繰り返してきました。人生の多くの所得を住宅にかけ続けなければならないその構造は、人々を幸せにするシステムとは言えません。
欧州では、祖父の建てた住宅を孫がリフォームして暮らすケースも珍しくありません。中古住宅でも、質さえ良ければ高値で流通する仕組みがあり、100年、200年と住宅を使い続ける社会になっています。そのため日本と欧州では、収入が同じでも、自分の人生のために使えるお金が大幅に違います。その要因のひとつには、住宅の燃費と耐久性の問題があることは間違いありません。