ドイツ並みにすれば年間約14万円も節約できる

しかし2棟の建物は、断熱気密性能が大きく異なっていました。Aは日本の省エネ基準レベル(断熱等級4)で、Bはドイツ並みのエコハウス(断熱等級7)です。光熱費は、Aが月平均2万円(年間24万円)、Bが8000円(年間9.6万円)になります。電気代などが、将来もいまとまったく同じだったとしても、年に14.4万円の差がつくので、初期コストの300万円の差は21年で逆転します。

そしてその後は、Bの建物のほうが毎年14万円以上、得をします。住宅ローンが35年だとしたら、払い終わるまでにBの建物のほうが500万円以上得することになります。初期費用の差額の300万円を引いても、200万円以上のプラスです。

一方、断熱性能の低いAの住宅を選んだ人は、この時点までに500万円のお金を、家にではなくエネルギー会社、もっと言えばアラブの産油国などに支払ったことになります。もちろん付加価値としては何も残りません。

現実的には、金額の差はもっと広がる可能性もあります。例えば電気代は、2022年の1年間だけで平均20%以上も上昇しました。今後も、円安や燃料費の高騰などにより、電気やガスなどのエネルギー価格は、長期的に上昇すると見られています。長い目で見ると、ここで行った計算よりも、Aの家とBの家の光熱費の最終的な差額は、より広がる可能性があるのです。

断熱性能の低い住宅は、長期的には損をする

そこまでわかっていたとしても、初期費用の300万円を捻出するのが難しいという方はいるでしょう。しかし、毎月のローンの支払いと光熱費の額を合わせて計算すると、実は毎月の出費も変わらないどころか、Bの家を選んだほうが安くなります。Aの家(2000万円)は、ローンの支払いと光熱費の合計が、月8.1万円です。Bの家(2300万円)は、同じく月7.8万円になります(図表1)。

【図表1】建築費(初期費用)と光熱費(ランニングコスト)のバランス
建築費(初期費用)と光熱費(ランニングコスト)のバランス(出所=『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』)

このように、断熱性能の低い住宅を選ぶと、将来のお金を失うことにつながります。将来のお金のことを考えるほど、初期費用をかけて断熱性能を高めることは重要なのです。

ここまでは計算を単純化するために、あえて光熱費の違いだけで説明しましたが、住宅のランニングコストは光熱費だけではありません。設備の更新費用や、外壁や屋根の維持・修繕などにかかるメンテナンス費、リフォーム費用などが加わります。住宅の初期費用は氷山の一角で、ランニングコストのほうが大きくなります(図表2)。

【図表2】初期費用とランニングコストのイメージ
初期費用とランニングコストのイメージ(出所=『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』)