パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに奇襲攻撃を仕掛け、イスラエルが報復を開始した。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「日本人にとって、けっして対岸の火事ではない。国民生活を苦しめている原油高、円安の加速に加え、テロの拡大、そして中国による台湾侵攻が早まる恐れがある」という――。
2023年10月17日、中国の首都北京で開催された第3回「一帯一路」国際協力フォーラムに出席する賓客に対し、中国政府・人民を代表して歓迎の宴を開く習近平国家主席。
写真=XINHUA NEWS AGENCY/EPA/時事通信フォト
2023年10月17日、中国の首都北京で開催された第3回「一帯一路」国際協力フォーラムに出席する賓客に対し、中国政府・人民を代表して歓迎の宴を開く習近平国家主席。

「日本は平和だから」と安心していられない

「近くで起きていることは意外と私たちの暮らしに直結せず、遠くで起きていることが、案外、日々の生活を直撃することが多いものです」

筆者は、教壇に立っている首都圏2つの大学で、学生たちにそう教えてきた。

たとえば、日本大学アメフト部や近畿大学剣道部での不祥事、旧ジャニーズ事務所を舞台にした性加害や政治家の問題発言の数々は、いずれも由々しき問題で、関心を向けるべき出来事ではあるが、日常生活にはほとんど関係がない。

ただ、最近で言えば、イスラム組織ハマスとイスラエルとの戦闘激化、そして、それを受けたアメリカや中国の動きなどは、「上がる物価、上がらない賃金」で家計のやり繰りに悩みながらも、「まあ、日本は平和だからいいよね」などと考えている国民の生活を大きく変えてしまうリスクをはらんでいる。

詳しくは後述するが、そのリスクとは、原油高、円安、テロの拡大、そして中国の台湾侵攻が早まる可能性がある、といったリスクである。

アメリカがイスラエルを支持する理由

リスクを生む理由の1つは、アメリカのバイデン大統領が、10月18日、イスラエル中部のテルアビブを訪問し、ネタニヤフ首相に全面支援を約束したことだ。

この日、ニューヨークでは、国連安全保障理事会の緊急会合が開かれ、大規模な戦闘の「一時停止を求める決議案」を採決したが、アメリカが拒否権を行使し否決されている。

アメリカ国内には、ユダヤ系住民が全人口の2%あまり住んでいる。また、旧約聖書をよりどころに「ユダヤ人が作った国家・イスラエル」を支持してきたキリスト教福音派の住民も25%近くに上る。これは無視できない数字だ。

アメリカでは、来年11月、大統領選挙のほかに上下両院選挙も実施されるため、バイデン大統領をはじめ再選を目指す人々が、こうした人々の票を得ようとイスラエルに加担するのは当然だ。

バイデン大統領が、いち早く、戦闘地域に近いテルアビブまで出向いたのは、国際社会に向けてという以上に、国内での支持率を上げる狙いも多分にあったはずだ。

しかし、この動きはおそらく裏目に出る。