ISO22000の認証獲得で安心・安全面での保証を得る

「以前、納品先からクレームが入ることが、幾度となくありました。複数の会社から同様の製品を調達していることが多く、不良品が混じったり、異物が混入したりしていると、『障がい者がラインについているカン喜が納めたものに違いない』という先入観に基づいて、ロクに調べもせずにクレームを入れてきたようです。しかし、調達先をきちんと調べると、違う会社が納めたものであることがすぐに判明しました」

お菓子やベーカリーなど、狭いマーケットにおける小規模の食品加工に障がい者が携わることはよくある。しかし、カン喜のように最終的に国内外のマーケットで広く流通する食品の加工に大勢の障害者に携わってもらおうとしても、安心や安全面でのリスクを考えて二の足を踏んでしまうことが多い。そうしたなか、カン喜は2013年に食品安全マネジメントシステム「ISO22000」の認証を受け、第三者による保証を得られるようになった。全従業員が一丸となって取り組んだことで、“世間の常識”を覆したのである。

障がい者と健常者が一緒に働く職場を常に誇りに思う上坂社長
撮影=熊谷武二
障がい者と健常者が一緒に働く職場を常に誇りに思う上坂社長

正育者の誇らしげな表情を見て感じる上坂社長の喜び

「ある面で福祉に携わっているのは事実ですが、そのことを営業の場でアピールするようなことは一切行っていません。殻付き冷凍カキグラタンをはじめ、美味しいうえに安心して口にしていただける製品を、全従業員が企業人として当たり前のように、世界中の人に向けてつくり続ける。その結果が、年間300万個という数字に表れていることを折りに触れて伝えると、正育者の皆は誇らしげな表情を浮かべます。そのとき私は、心の底から『よかった』という思いに駆られます」と上坂社長は語る。

22年度は原料となるカキが不足して生産調整を余儀なくされて、減収が避けられなかった。その結果、17年間続いていた黒字経営が途絶えてしまった。しかし、23年度は21年度と同程度の7億5000万円前後の売上高に戻る見通しにある。こうした業績面での裏打ちが、正育者を含めた全従業員の自信を支えている。上坂社長は、新製品である「檸檬かきフライ」の強化などで、さらなる巻き返しを図っていく考えだ。