心のなかで胸を張る

わたしは学んだ。自分がほかとちがうことを、もっとプラスに受けとめることもできる。新しい場に足を踏みいれるときには、それが役立つ。ある意味、心のなかで胸を張るということ。

自宅や安心できる友人関係のなかですでに知っていることを、ほんの少し間をとって自分に言い聞かせる。自分を認めるものは、自分のなかから生まれる。新しい場へ入るとき、その力を活用できると役に立つ。

I can't do it から'tをはさみで取り除く
写真=iStock.com/BrianAJackson
※写真はイメージです

本物の自信の根

自分の頭のなかでリアルタイムに、わたし自身のために、自分なんてどうでもいい存在だという物語を書きなおせる。

“わたしは背が高い、それはいいことだ”
“わたしは女性、それはいいことだ”
“わたしは黒人、それはいいことだ”
“わたしはわたし、それはとてもいいことだ”

自分なんてどうでもいい存在だという物語を書きなおしはじめると、新しい軸が見つかる。

ミシェル・オバマ『心に、光を。 不確実な時代を生き抜く』(KADOKAWA)
ミシェル・オバマ『心に、光を。 不確実な時代を生き抜く』(KADOKAWA)

他人の鏡から自分を引き離し、もっと自分自身の経験から、自分が知っている場所から話せるようになる。自分の誇りを大切にできるようになって、あらゆる“にもかかわらず”を乗りこえやすくなる。障害物がなくなるわけではないけれど、それを小さくするのに役立つ。たとえ小さなものでも勝利を認める助けになり、自分はだいじょうぶだと思えるようになる。

これが本物の自信の根だとわたしは信じている。そこを出発点に、もっと人の目にとまる方向へすすんでいける。もっと主体性をもって行動し、大きな変化を生む力を身につけるほうへ。

一度や二度の挑戦で克服できるものではない。十数回挑戦しても無理だ。自分を他人の鏡の外へ出すには、努力が求められる。正しいメッセージを頭に保っておくには、練習が必要だ。

この作業がとてもむずかしい理由を知っておくのも役に立つ。わたしたちは、すでに書かれた何層もの台本に自分の台本を上書きしなければならない。わたしは場ちがいだ、ここにいるべきじゃない、だれもわたしを気にとめない。そんなふうにずっと語られてきた物語に、本当のことを上書きしなければならない。その物語は伝統に守られて日常生活に埋めこまれていて、多くの場合、文字どおり日々の背景になっている。

そういう物語が、自分と他人についてのわたしたちの考えを無意識のうちに形づくっている。だれが劣っていてだれがすぐれているのか、だれが強くてだれが弱いのかを教えこもうとする。

そこには選ばれたヒーローがいて、確立された常識がある。

“重要なのはこういう人だ”
“成功とはこういうものだ”
“医者とは、科学者とは、母親とは、上院議員とは、犯罪者とはこういう人で、勝利とはこういうものだ”

物語は自分のなかにある

州会議事堂に南部連合旗がはためく場所で育った人も、奴隷所有者のブロンズ像が立つ公園で遊んだ人も、ほとんど白人を中心としてつくられた正典カノンを通じて国の歴史を教わった人も、こういう物語が自分のなかにある。最近、メロン財団が資金を提供して、アメリカ各地の記念碑の調査がおこなわれた。調査結果によると、その大多数が白人男性の名誉を讃えたものだった。半数が奴隷所有者で、四〇パーセントが裕福な家庭に生まれた人物。黒人と先住民は、こんなふうに記念された人物のわずか一〇パーセントにすぎなかった。女性はたったの六パーセント。人魚の像のほうが女性国会議員の像より多く、その割合は一一対一だった。

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