一方で、プリゴジンの肩を持つような報道をするメディアもあった。国営のメディアとテレビも反乱においてほぼ「血は流れなかった」とする立場で、「(ワグネルは)誰を攻撃したわけでも何を壊したわけでもない」し、「何も悪いことはしていない」というロシア下院国防委員会のアンドレイ・カルタポロフ委員長の発言を報じた。カルタポロフは軍出身で、プーチンの与党、統一ロシアの重鎮でもある。
それと対照的だったのが、ロシア政府寄りのブロガーや、テレビ番組にゲスト出演した人々の一部の発言だ。彼らの中には少数ながら、反乱で死んだ十数人のパイロットは何のために命を落としたのかと問いかけ、罰せられるべきは誰か明らかにすべきだと主張する人々もいた。
ロシア下院国防委員会に属するアンドレイ・グルレフはロシアのテレビ局RTVIに対し、ワグネルは「わが軍の兵士の死」の責任の「100%を負う」ことになるだろうと述べた。国営テレビの「ロシア1」のトーク番組『60分』の司会を務めるエフゲニー・ポポフはプリゴジンのことを「反逆者」と呼んだ。
プーチンは2回にわたってテレビに短時間、「生中継」で出演した。それも同時に、別々の場所からだった。テレビ局側からの説明はなく、「プーチン影武者説」を勢いづける結果となった。
プリゴジンの乱は、ロシア政府の宣伝マシンの欠陥を白日の下にさらした。だがウクライナ侵攻が始まって間もない頃から、その欠陥は目につき始めていたし、侵攻が泥沼化するなかで傷口は広がっていった。
侵攻開始直後の昨年3月、ロシア政府は、ロシア軍に関する「フェイクニュース」を意図的に拡散した場合に最長で禁錮15年の刑に処するという法律を作って情報統制を強化しようとした。それ以来、この「戦争=フェイクニュース法」はプーチンと主張の合わない人々を弾圧するのに使われている。この法律ではメディアがウクライナ侵攻のことを「戦争」と呼ぶのも禁じられており、国営メディアはプーチンの言う「特別軍事作戦」という用語を使っている。