原因は「アップデートの失敗」

こうした逸脱は自由化やメディアへの締め付け緩和を示すものではないと、専門家はクギを刺す。

政治学者のガレオッティによれば、ロシアの国営メディアには通常「多様な意見」が存在する余地があるものの、「範囲はかなり狭い」と言う。「これは愚かな戦争だった、すぐに撤退すべきだと、実際に口に出して言える人間はいない」

ランド研究所のポールは、「ロシア政府のさまざまな部門が言いたいことを理解するのに時間がかかる」こともあると指摘する。「この種の矛盾は、プロパガンダ機関のさまざまな部門が広めたいと考える情報や現時点での解釈を、部分的に切り取っているだけの場合もある」

例えばロシア国営通信社RIAノーボスチは今年3月、戦場で負傷し、プーチンが約束した補償金を受け取っていない兵士たちの不満を記事にした。「どこかの組織の誰かが政府からメッセージを受け取っておらず、おそらく誰かが懲罰を受けただろう」と、ポールは言う。

報道官のペスコフは状況に合わせてストーリーを変えるやり手の外交官だが、プリゴジンの乱の直後、当初はロシア政府は「プリゴジンの居場所については何も知らないし、興味もない」と主張した。だが数日後、西側メディアがこの件を取り上げると、プーチンが反乱直後にプリゴジンらと会っていたことを認めた。ロシアの基準でも衝撃的なレベルの手のひら返しだ。

さらにペスコフは6月26日夕方のプーチンの国民に向けた演説について、「真に重要なものだ」と記者団に語ったと、インタファクス通信が報道した。その後、主要報道機関がこぞってこの演説を大げさに報じると、ペスコフはこの発言を否定した。実際、この短い演説は国民に不評で、当局の厳重な監視下にあるはずのロシアのソーシャルメディアでも、政府寄りのメディアやプーチン自身を酷評する声が上がった。

ポールによれば、ロシアのプロパガンダがうまくいっていない理由の1つは「アップデートの失敗」だ。プーチンがクリミア半島を不法に併合した14年には「実にうまく」機能したと、ポールは言う。「おそらく同様のアプローチで同様の成果と成功が得られると期待したのだろう」

クリミア併合は人的犠牲が比較的少なく、国内で支持されていた。だが、今回のウクライナ侵攻とロシア側の苦戦ぶりを国民に売り込むのは、それよりずっと難しい。