バフムート陥落に難癖を

一方、ロンドン在住の政治学者マーク・ガレオッティは違う見方をしている。許容範囲内なら反対意見の表明を許し、多様な見解があるように見せかけるのはプーチン政権の常套手段だというのだ。「部下たちが全員、自分に忠実なら、部下たち同士が争うのは結構なことだというのが、プーチンの流儀だ」と、ガレオッティは言う。

プーチンの長年の腹心だったプリゴジンは、反乱に至る何カ月かの間、プーチンが始めた戦争を最も声高に批判していた。ついにはメッセージアプリのテレグラムで戦争は偽りの口実で開始され、ロシア政府の高官たちは腐敗し無能だとまで断じた。ロシア、ウクライナ双方の民間人が殺され、「何も知らないおじいちゃん」(プーチンを指すらしい)は蚊帳の外に置かれている、というのだ。

6月24日、プリゴジンはワグネルの戦闘員たちと共に首都モスクワを目指した。あっけなく終わったこの反乱で、ワグネルはロシア南部の2つの軍事拠点を掌握し、首都まで200キロ圏内まで迫ったが、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介で矛を収め撤収した。

この一連の不可解な動きに対し、ロシアの国営メディアの混乱ぶりは目に余るほどだった。「プリゴジンとワグネルは国家の英雄であり、成果を上げていた。だが突然この珍事が勃発し、彼らは首都に進軍する裏切り者となった」と、ロシアのプロパガンダ機関に詳しい米シンクタンク・ランド研究所の研究員クリストファー・ポールは言う。「虚偽にまみれた公式報道もこの事態をどう扱えばいいのか途方に暮れたようだ」

反乱とその影響についての報道で、プーチンの政治宣伝マシン内部の足並みの乱れや方向性の欠如が露呈した。一部の国営メディアは手のひらを返したようにプリゴジンを酷評。バフムートの重要性に難癖をつけ、この都市の掌握になぜ200日余りもかかったのかと疑問を呈した。

5月に国営テレビはこぞってバフムート陥落の「歴史的な意義」を強調していたが、政府系の第1チャンネルは6月30日、バフムートは「最前線の最も重要な都市ではない」と報じ、ロシアの正規軍は昨年ウクライナ東部のマリウポリをはるかに短期間で陥落させたと付け加えた。