<国内外に虚偽情報を流し世論を操ってきたプーチンの最強マシンにほころびが生じ始めた:イザベル・バンブルーゲン、エフゲニー・ククリチェフ>

ロシアのプロパガンダ機関は、広範囲に及ぶその影響力と世論操作の巧みさで知られる。ソーシャルメディアを兵器化し、欧米の選挙に介入。「文化戦争」と呼ばれるアメリカの保守vsリベラルの対立や政治的分断をあおってきた主要プレーヤーでもある。

国内の世論操作も抜かりない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は以前から国営メディアの再編を進め規制を強化し、政権批判を圧殺してきた。プーチンの報道官であるドミトリー・ペスコフが毎週、主要紙の編集長と会合を持ち、報道内容に一貫性を持たせていると伝えられている。どういう路線でどういう記事を載せるか、編集方針にも「内密の指示」が出されるというのだ。

だがウクライナ戦争における作戦の失敗と混乱が、プーチンの政治宣伝マシンに生じた亀裂の拡大を浮き彫りにした。国営メディアは戦争の大義を国民にうまく説明できていない。戦闘が長引き終わりが見えないなか、つじつまの合わない報道が増え、国民に知られてはまずい真実をぽろりと漏らすようにもなった。

プリゴジンとの会談を否定したペスコフ報道官。写真はロシア北西部サンクトペテルブルクで開催された「ロシア・アフリカ首脳会議でのペスコフ報道官。
SPUTNIK/時事通信フォト
プリゴジンとの会談を否定したペスコフ報道官。写真はロシア北西部サンクトペテルブルクで開催された「ロシア・アフリカ首脳会議でのペスコフ報道官。

国営メディアの混乱がピークに達したのは6月に起きた「ワグネルの乱」の後だ。ロシアの民間軍事会社ワグネルとその創設者エフゲニー・プリゴジンはウクライナ東部の要衝バフムートを占領した手柄などでロシアの英雄扱いされていたが、反乱を起こしたからには「裏切り者」の烙印らくいんを押さざるを得ない。それでもロシアの一部政治家やメディアは反乱を大したことではないように見せかけようとした。プーチンは反乱収束後、プリゴジンとワグネルの指揮官らと会談したが、ペスコフは当初この事実を否定。その後に渋々認めるという失態を演じた。(編集部注:プリゴジンは搭乗機の墜落で8月23日に死亡)

ロシア版「大本営発表」と現実の戦況との違いがこれまで以上に明らかになり、公然の秘密となっても、プーチンは「鉄の統制」を緩めようとしなかった。だが国民の間に不信感が高まり、長期的にはプーチンの統制が崩れる可能性があることは、一部の観測筋の見解や最近の世論調査の結果から容易に推測できる。

「体制が不安定だと、いろんな場所にほころびが生じ、問題が起きるものだ」と、今はロシアでの放送が禁止されているロシアの独立系テレビ局ドーシチの編集局長ティホン・ジャドコは言う。「戦争の終わりが見えない状況で、ロシア政府とプロパガンダ機関の連中も自軍が押され気味なことに気付いている。開戦当初に占領した地域を失いつつあることも分かっているはずだ」