中国が台湾に軍事侵攻する可能性はあるのか。元外交官の宮家邦彦さんは「習近平は慎重であり、今すぐ台湾への武力行使に踏み切る可能性は高くない。一方、中国が侵攻するとすれば、『台湾が独立宣言をする』『アメリカが台湾に関心を失う』『中国共産党内の権力闘争や大衆運動で習近平が対米弱腰を批判される』などで、習近平政権が戦略的誤算を犯す場合が考えられる」という――。

※本稿は、宮家邦彦『世界情勢地図を読む』(PHP研究所、2023年3月刊)の一部を再編集したものです。

2023年3月21日、プーチン氏(右)が行った習近平氏の歓迎式典で、握手しながら記念撮影に応じる両首脳。
写真=中国通信/時事通信フォト
2023年3月21日、プーチン氏(右)が行った習近平氏の歓迎式典で、握手しながら記念撮影に応じる両首脳。

中国による台湾軍事侵攻の可能性

アメリカ、ロシアと並び、今後の国際情勢を左右する大国、中国を取り上げましょう。2022年10月、中国共産党第20回全国代表大会で習近平国家主席の3選が正式決定され、中国国内の共産党独裁、特に習近平個人への権力の集中が進みつつあります。一部には、中国による台湾侵攻の可能性が「高まるのではないか」といった懸念もあるようです。

ここでは、通説や俗説を踏まえて「悪魔」と「天使」にさまざまな意見を象徴的に語ってもらい、それらの真偽を見ていきましょう。

悪魔のささやき

①独裁体制を強化した習近平は、自らの政治的遺産として、遅くとも建国100年を迎える2049年までに、また早ければ数年以内にも、台湾軍事侵攻を本気で考えているとしか思えない

②人民解放軍の組織改編と近代化は着々と進んでおり、台湾有事の際、仮に米軍の直接軍事介入があったとしても、人民解放軍は独力で台湾を制圧する能力を保持しつつある

③最近、アメリカは台湾支援を強化しているものの、ウクライナで示された通り、最終的にアメリカは台湾防衛のために自ら戦い、米軍兵士の血を流す覚悟は全くない

④仮に台湾有事が発生しても、それは日本に対する直接攻撃ではないので、日本としても実際には何もできないし、中国は日米間に楔を打ち込もうとするので、実際には日米同盟は機能しないだろう


天使のさえずり

①習近平は「台湾解放」の失敗を懸念しており、任期中に必ず台湾を軍事侵攻するとは限らない

②台湾海峡を渡る台湾島制圧作戦は、戦略・戦術・兵站面でロシアのウクライナ侵攻以上に成功は難しい

③台湾有事は基本的に海上・航空戦闘が中心となるので、米軍の軍事介入の可能性はウクライナよりも高い

④中国が本気で台湾制圧を目指すなら、在日米軍基地や日本領空・領海への攻撃は不可避である