※本稿は、宮家邦彦『世界情勢地図を読む』(PHP研究所、2023年3月刊)の一部を再編集したものです。
中国による台湾軍事侵攻の可能性
アメリカ、ロシアと並び、今後の国際情勢を左右する大国、中国を取り上げましょう。2022年10月、中国共産党第20回全国代表大会で習近平国家主席の3選が正式決定され、中国国内の共産党独裁、特に習近平個人への権力の集中が進みつつあります。一部には、中国による台湾侵攻の可能性が「高まるのではないか」といった懸念もあるようです。
ここでは、通説や俗説を踏まえて「悪魔」と「天使」にさまざまな意見を象徴的に語ってもらい、それらの真偽を見ていきましょう。
悪魔のささやき
①独裁体制を強化した習近平は、自らの政治的遺産として、遅くとも建国100年を迎える2049年までに、また早ければ数年以内にも、台湾軍事侵攻を本気で考えているとしか思えない
②人民解放軍の組織改編と近代化は着々と進んでおり、台湾有事の際、仮に米軍の直接軍事介入があったとしても、人民解放軍は独力で台湾を制圧する能力を保持しつつある
③最近、アメリカは台湾支援を強化しているものの、ウクライナで示された通り、最終的にアメリカは台湾防衛のために自ら戦い、米軍兵士の血を流す覚悟は全くない
④仮に台湾有事が発生しても、それは日本に対する直接攻撃ではないので、日本としても実際には何もできないし、中国は日米間に楔を打ち込もうとするので、実際には日米同盟は機能しないだろう
天使のさえずり
①習近平は「台湾解放」の失敗を懸念しており、任期中に必ず台湾を軍事侵攻するとは限らない
②台湾海峡を渡る台湾島制圧作戦は、戦略・戦術・兵站面でロシアのウクライナ侵攻以上に成功は難しい
③台湾有事は基本的に海上・航空戦闘が中心となるので、米軍の軍事介入の可能性はウクライナよりも高い
④中国が本気で台湾制圧を目指すなら、在日米軍基地や日本領空・領海への攻撃は不可避である