経済的な自立のために絵を売っているのではない

こういったことからも、GAKUの経済的な自立のために絵を売っているわけではない。実際のところ、GAKUは売れた絵の10%の金額しか受け取っていない。しかもそれらは、彼の遠足などのために使われている。同伴するスタッフの遠足費用も、これで賄っている。

もちろん、GAKUの事業が今後もうまくいくという保証はどこにもない。失敗すれば、GAKUの作品の売上もそのまま消える。本来ならば、GAKUの貯金となるものをリスクにさらしていることになる。しかしこれはもし彼が健常者アーティストであったとしても、彼自身が引き受けなければならないリスクである。

そのため、ボクは親の権限で息子の代わりにリスクのある決断を日々下している。

アート活動での体験や出会いが「資産」になる

これとまったく同じことを、よその家庭の子どもに対してすることはできないだろう。もし失敗したら、よその子どもの貯金を溶かすことになるからだ。しかも「絵が売れたのに10%しか還元されない。搾取されている!」といわれるだろう。

だからこそ、この本に書いてあるスキームはGAKUが自分の子でないと成立させにくい。

佐藤典雅『GAKU,Paint! 自閉症の息子が奇跡を起こすまで』(CCCメディアハウス)
佐藤典雅『GAKU,Paint! 自閉症の息子が奇跡を起こすまで』(CCCメディアハウス)

親バカだからとか、息子にえこひいきをするためという理由だけでできるものではない。単にお金がほしいだけであれば、最初から事業化なんかせずに、時々入ってくる収入を貯金しておけばよいだけの話だ。

しかし、GAKUにたくさんの貯金が残ったところで、彼がそれを活用することはできない。それよりも、彼が充実した人生を送れるように、親が生きている間に有効活用してあげることに意味がある。

今後、彼がアート活動を通じて得られる特別な体験や人との出会いは、彼にとって本当の意味での「生きた資産」になっていくだろう。

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