絵はGAKUにとって社会との架け橋だ

言葉というコミュニケーション手段を持たないGAKUは、ある意味世界から隔離されていた。そして、社会的な営みの中で自分の存在を示す方法も持ち合わせていなかった。

それが16歳のときに、突然GAKUは「絵」という手段を見つけた。自分が感じていることや共有したいことを、絵で表現できるようになった。そして、絵を通じてまわりの人からフィードバックをもらえるようになった。

さらにクラファンでは、大勢の人に自分のプロジェクトを応援してもらった。さまざまな企業といろいろなコラボ案件をすることもできるようになった。自分の絵を使って、社会活動の中でひとつの役割を演じることもできるようになったのだ。文字通り、絵はGAKUにとって社会との架け橋となっている。

GAKUは年間200枚の絵を描くが、もし絵がGAKUの言葉であるならば、GAKUは相当なおしゃべりである。GAKUが世の中に対して発信していきたい言葉は、たくさんある。

写真左から、ココさん、GAKUさん、父親の佐藤典雅さん
筆者提供
写真左から、ココさん、GAKUさん、父親の佐藤典雅さん

「GAKUの絵はいつ売れるのか」

GAKUは、かなりのビジネスマンだ。まず彼は、自分の作品が使われるコラボ案件に興味を持っている。だから、企業等から送られてくるPDFをボクが見ていると、必ずGAKUがのぞき込んでくる。

「おしえてー」

そんなときは、「これはどこどこの会社で、こんな商品を作りたいといってくれているんだよ」と説明する。すると満足した感じで「GAKUのー」という。

GAKUは、すべての物事に対してクロージングをしたがる。そして最後の着地点は、“Money!”となる。といっても本人の関心事は、そのお金で中古DVDと柿の種を買えるかどうかぐらいだが……。

だから本人には、1万円以上のお金の価値はよくわかっていない(と思われる)。けれども、ビジネスマンとして自分の絵が換金されているかの確認はしてくる。新しい作品が溜まってくると、毎回こういう。

“GAKU painting,customer buy! When!(ガクの絵はいつ売れるのか)”

GAKUは、どの絵が売れたのかも覚えている。

少し前、GAKUの初期の作品があまっていたのでグループホームに飾ることにした。それからしばらく経って、GAKUがたまたまグループホームに行ったところ、自分の絵を見つけるなり、真剣に訴えてきた。

“GAKU painting,money! Gaku no rent!”

彼は、自分の絵をグループホームに売った覚えがない。そこで、自分の絵は売り物であってレント(貸す)はしないというのだ。それを聞いて、一堂で大笑いした。