「150万円」を絵に描くブーム

クラファンのときに、ミントキャットの絵をわが家用に購入したことは前述した。後日この絵がわが家に届き、ダイニングルームに飾られることになった。

GAKUは自分のクラファンページで、そのミントキャットに「150万円」という値段がついていることに気がついた。その時点で、彼に変なスイッチが入ってしまったようだ。

翌日彼はアトリエに着くと、かなり雑なタイガーを描いた。実は我々はミントキャットと呼んでいるが、彼の中ではそれはキャットではなくタイガーらしい。GAKUは「そのタイガーさえ描けば、150万円入るんだろ!」と大きな態度に打って出た。

非常に荒っぽいタイガーの上に「\1,500,000」とでっかく描き込むと、“One million five hundred thousand yen!”を連呼した。この絵は150万円で売れるんだぜ、という意気込みだ。

「コラ! そんな絵が売れると思うの⁉」

ココさんもこれには呆れて、強く注意した。するとGAKUも「ちょっとやりすぎたか」という感じでその数字を消していった。でもやっぱりその150万円が気になるらしく、次の日にまたその上から金額を書き込んでいった。それから数週間、この「150万円」を絵に描くブームは続いた。

GAKUさん
筆者提供
GAKUさん

障害者からいきなり「雇用主」になっている

多分GAKUには、大きな桁の金額が何を意味するかわからないだろう。そして、一生そういった金額を彼が扱うこともない。だから、GAKUに大きな金額は必要ない。

では、何のためにGAKUのアートと経済活動に力を入れているのか。

それは、彼が望む活動を長期にわたって継続できるようにするためだ。そのために、GAKUのアート活動を「事業」として見ていく必要がある。だからボクが彼の代理人として、売れた絵の売上ほとんどをbyGAKUの事業に再投資している。

GAKUの事業には、結構費用がかかる。絵の保管場所の家賃や、保管用の棚を作るのにも費用がかかっている。デジタルのアーカイブ費用、さまざまなデザイン制作物の展開やPR活動にも人を動かす予算が必要だ。これらはGAKUの絵の売上から賄われている。

こう考えてみると、GAKUは障害者から納税者になるところをすっとばして、いきなり「雇用主」になっている。よくよく考えてみると、スゴイ話だ。