函南町長の発言を都合よく利用する川勝知事
2021年10月26日の知事会見で、「丹那トンネルの実例を踏まえた南アルプストンネル工事への懸念」(川勝知事)について、文献調査を行ったとして、県リニア担当者が発表した。
担当者は、『丹那隧道工事誌渇水編』(鉄道省熱海建設事務所編、1936年)を基に、トンネル工事中に丹那盆地の湧水枯渇66カ所、地下水位がトンネル付近の130mまで低下、想定外の突発湧水があり、流出した水量は芦ノ湖3杯分の6億トンに及ぶなどと説明した。
また、『丹那トンネル開通・函南駅開業50周年記念誌』(1984年)を基に、当時の函南町長が「多くの人は、水は再び復すると期待していた。失った水は戻らない。お金で解決せず、(トンネル)湧水をポンプアップして丹那に戻す方法を講ずべきだった」という言葉を紹介した。
担当者は、この函南町長の言葉が、現在のリニア工事への懸念をそのまま表現しているとした。
担当者のこの発言の背景には、川勝知事がリニア工事における湧水流出について「水一滴も県外流出は不許可」という姿勢を崩さないことがある。
「工事中の人命安全確保」を最優先するJR東海に対して、「トンネル湧水の全量戻しが当然」の論拠に、函南町長の言葉を使ったのだ。
水が一滴でも流出するならリニアは通さない
静岡、山梨県境付近は約800mもの断層帯が続き、突発湧水によるトンネル工事の危険性が指摘される。
県境付近の工事について、JR東海はトンネル掘削をする際、静岡県側から下向きに掘削していくと、突発湧水が起きた場合、水没の可能性が高く、作業員の生命の安全が図れないとしてきた。
このため、山梨県側から上向きに掘削する工法を説明。上向き掘削の場合、工事期間中の約10カ月間に最大500万トンの水が山梨県側へ流出すると試算した。県専門部会では、「一滴の水も県外流出できない」か「工事中の生命の安全」かが議論となっていた。
2021年10月当時、国が設置した有識者会議は、2年近くの議論を重ね、JR東海がトンネル湧水全量を大井川に戻すことで、県境付近工事中の山梨県側への流出を含めて、「中下流域の表流水への影響はほぼなし」とする結論をまとめる方向にあった。
ところが、川勝知事は「トンネル湧水の全量戻しがJR東海との約束であり、全量戻しをできないのであれば、工事中止が約束だ」などと有識者会議の結論を否定した。
“命の水”を一滴でも戻すことができないのであれば、リニア工事の中止あるいはルート変更を要求していた。