海外メーカーを困惑させた「日本の異常なこだわり」

たしかにこれまでは世界中に張り巡らされた調達網を使えば、必要な量だけを安価に購入できた。ただ森林大国であるはずの日本は、米国の新規住宅増に影響を受けるほどのもろさを露呈した。

ところで、日本側に落ち度はなかったのか。日本各社は必死に調達しようとしていた。しかしさまざまな困難に直面した。理由は日本側の要求品質の高さだ。仕上がりの注文が細かい。それはJQ(Japan Quality)と呼ばれる。

たとえば木材のそり・曲がりの許容度は他国より厳しく、さらに面積における節の比率は低く抑えられている。外国の製材メーカーは日本の住宅メーカー向けに特別な検査工程や別工程を用意せざるをえなかった。さらに日本の住宅メーカー向けのものは不良品となる率も高い。かつて日本の新設住宅着工戸数は順調に推移していたし、正規品ではないと弾かれる不良品があっても、外国の製材メーカーは許容していた。日本側が重要顧客だったからだ。

日本の住宅メーカーへ販売する単価はさほど高くなかったものの絶対量が確保できていたためだ。しかし、さきに挙げた通り、とくに2021年に米国などを中心とした建設需要の急増から潮目が変わった。欧米はインフレとともに、労働者の給与増が続く。日本が要求するほどには木材の品質が高くなくて良い。

しかも高く買ってくれる。ゆえに日本向けに生産するインセンティブはない。

木材
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市況を無視した交渉で外国からそっぽを向かれた

住宅メーカーの幹部に聞いた。

「これは木材に限りませんけどね、とにかく日本向けは面倒くさい。外国だったら信じられないレベルの要求をする。他の国に次々に売れていくのに、日本だけに特別な対応はしませんよって。人材もかけられないよ、と。高額のオプション価格を上乗せして払わないと出荷できません、と。さらに、国内の商社からは日時や量を細かく指定した搬入指示も厳しいですよ、とクレームが来ました」

第一次・第二次ウッドショックが起きた際、早い段階から大口の注文を出して木材を確保すればよかった、という人もいる。しかし大胆な発注ができなかった。一つには国内景気の不透明さがあった。コロナ禍からいつ抜け出せるかもわからず、会社として多額の注文に踏み出せなかったのだ。読みを誤ると大量の在庫になる。ただ供給の逼迫に対して大口の注文どころか、海外勢を刺激した日本企業もあった。

たとえば住宅のはりに使う挽き板(ラミナ)がある。この挽き板とは、集成材を構成している小角材ピースだ。日本のメーカーには、コロナ禍の景気の不透明感のなかで、この挽き板の調達価格を下げようとしたところがあった。しかし欧州の供給者からすれば「なぜこの時期に下げる必要があるのか」となる。市況を無視した交渉でそっぽを向かれた。