深刻な影響が出た「バイオマス発電」
バイオマス発電にとっても事態は深刻だった。発電用の木質バイオマス材料は高騰し入手しにくくなった。関西電力の朝来バイオマス発電所は稼働を停止した。他にも稼働を停止したバイオマス発電所は多い。バイオマス発電の事業者は長期契約を結ぶケースが多くなく、価格が市況に影響を受ける随時調達で購入するケースが少なくない。
バイオマス発電で使用する木材チップは、その原料となる植物の成長過程で二酸化炭素を吸収するためにエコな燃料と考えられている。環境面からも推進されていたものの、その方針がつまずいた。
2021年に米国発のウッドショックが起きた。1970年代の「オイルショック」になぞらえた単語だ。コロナ禍のテレワークで郊外への移住が進んだことや、歴史的低金利で建設・住宅需要が伸びた。巣ごもりのDIYブームもあった。また、もともと脱炭素を推進する関係で森林伐採を縮小させていた。
さらにアジアでは移動制限とロックダウンで労働者もコンテナも不足した。さらに米国の各港で物流が滞り、不足に拍車をかけた。木材価格の指標となるシカゴ・マーカンタイル取引所の先物価格が2021年には異常値をつけていたほどだ。次に起きたのがロシアのウクライナ侵攻だった。
セメントや石炭はロシアに依存している
森林認証機関であるPEFCとFSCがベラルーシ産とロシア産を、紛争鉱物ならぬ紛争木材として認証を停止した。紛争鉱物とは、人権蹂躙を引き起こす地域で、テロ組織などが資金源とする天然鉱物を指す。当該地域から調達するほどテロ組織に加担することになる。
有名なのはコンゴ民主共和国で採掘されるスズやタンタル、タングステンだ。だから米国などを中心に、これら紛争鉱物を調達しないように進めてきた。その木材版だ。PEFCとは国際基準に則って林業が操業されていると第三者が認証するものだ。FSCも似た仕組みだ。
PEFCが紛争木材とみなしたベラルーシとロシアの森林面積は世界の認証面積の12.5%にいたっていた。欧州はベラルーシからの木材調達を制限。結果、欧州の木材が不足し高騰した。ロシアも対抗措置を講じた。非友好国へ木材や製紙材料やバイオマス発電用の木材チップなどを輸出停止すると発表した。このように米国とロシアの大国発の第一次・第二次ウッドショックが世界を襲った。
なお、日本にとっては木材だけではない。コンクリートの原料であるセメント、その燃料である石炭はロシアに頼っている。影響は大きい。