「統合失調症だけじゃなくASDも混じってるんだと思います」

「だから統合失調症だけじゃなくASD(自閉症スペクトラム障害)も混じってるんだと思います。でも、他人に大きな迷惑はかけないくらいで、いわゆる軽度ってやつ。精神科の先生にも言われました。あなたはASDっぽいけど、これ以上処方したら薬漬けになるからやめましょう、って」

琴音の密着取材は、振り返れば苦難の連続だった。約束の時間に遅れる――「家から出られない」とすっぽかす――そして、「やっぱり書かないでほしい」と取材自体を反故にする。

おそらく何かの幻覚や妄想の影響で、前に進んではダメだと不安にかられたのだろう。それらの不可思議な行動は単なる怠慢ではなく、多分に統合失調症の陽性症状が影響していたとみるのが自然なのだ。

オフィスでストレスを感じるビジネスウーマンのシルエット
写真=iStock.com/Poike
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思い込みが激しく、場の空気を読めない

ASDは生まれつきの脳機能の発達が関係する障害で、ADHD(注意欠陥・多動性障害)やLD(学習障害)とならび、主な発達障害のひとつだ。できることとできないことの能力に差が生じ、仕事や日常生活に苦しむ。

ASDは、知的な問題はないが、人間関係のコミュニケーションに問題が生じる障害だ。思い込みが激しかったり、場の空気を読めなかったり、こだわり行動(興味・関心が限定される、特定の行動を繰り返す)があるといった症状によって特徴づけられる。

ただし症状には軽度から重度までグラデーションがあり、軽度の場合はわかりづらいものらしい。ちなみにADHDは不注意が多く、加えて多動・衝動性が強い。LDは知的発達に遅れはないが読み書きや計算が困難、といった特性がそれぞれある。