路上売春を続ける女性の語る「境遇」は真実とは限らない。ノンフィクションライターの高木瑞穂さんの著書『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)より一部抜粋し、横浜市内の高級住宅街で生まれた31歳の舞台女優・琴音さんのケースを紹介する――。(後編/全2回)
高級シティホテルに宿泊する街娼
(前編から続く)
「ねえ、高木さん、いま歌舞伎町? なら、私、西新宿の京プラ(京王プラザホテル)にいるから遊びに来ない? 朝食奢ってほしい」
京プラといえば、高級シティホテルである。以前から琴音の日々の暮らしぶりを知っておきたかった僕は、二つ返事で了承し、琴音のもとへ急行した。
話の信憑性がどれだけあるのかを見極めつつ、朝食というエサで恩を売る。これこそが、琴音の収支の全貌を浮かび上がらせるきっかけになると考えたからだ。
高層階の一室でチャイムを鳴らすと、上下ピンク色のパジャマを着た化粧っ気のない琴音が扉を開き、部屋のなかへと招いた。
売春以外にも何らかの手段でカネを得ている
まさに高級ホテル暮らしをしていた琴音は、在籍する風俗店で2時間後に指名予約が入っているらしく、出かける身支度を始めるところだった。
15畳はありそうなダブルルームのそこかしこに洋服や化粧品、服用している薬などが置かれていたが、私物は大きめのキャリーバッグに収まるほどしかない。
私物は「これで全部」で、滞在は「今日で10日目」。でも、1泊1万6000円の宿泊費を毎日、払い続けるのはさすがにキツい。そこで、新宿近辺に部屋を借りることも考えているという。
見えてきたのは、やはり売春以外にも何らかの手段でカネを得ているという状況だ。
琴音のリクエストで持参したカップラーメンにお湯を注ぎ、割り箸とおにぎりを差し出す。温かい麺をすすり琴音が笑みをこぼしてから、何気ない会話のあとに切り出した。