NHKは国民から徴収する受信料を「特殊な負担金」と説明している。『NHK受信料の研究』(新潮新書)の著書がある早稲田大学社会科学部の有馬哲夫教授は「NHKがあまねく全国に放送する特殊な存在だった時代には通用したが、インターネットが広がった今、国民に『特殊な負担金』の支払いを求める理由はない」という――。
NHKの看板(東京都渋谷区)
写真=時事通信フォト
NHKの看板(東京都渋谷区)

NHKの「特殊な負担金」論の矛盾

総務省が設置した「公共放送ワーキンググループ」が5月26日、「スマホを持つだけで受信料を徴収することはない」と明言し、マスコミ各社がこれを報じている。

ところがNHKの広報は、5月17日のメディア関係者向け説明会で「NHK受信料は『視聴の対価』ではなく『特殊な負担金』」だと説明している。

これだと、NHKの維持費なのだから、番組を視聴しようとしまいと、さらにテレビやスマホを持っていようといまいと、国民は受信料を払って負担することになる。ワーキンググループの言っていることと大きく矛盾する。

そもそも、「特殊な負担金」という文言は、1964年に「臨時放送関係法制調査会」の中で使われたものだ。なぜ1964年、つまり今から59年も前の言葉をNHKは繰り返し引っ張り出してくるのだろうか。

「NHKなんか見ていないのに」に対抗

答えは、私がこれまで指摘してきた事実を知っていただければ得られるだろう。それは、国民の半数近くが、NHK総合チャンネルを1週間に5分も見ていないという事実だ。これは、NHK放送文化研究所が公表したデータだ。

プレジデントオンライン〈日本人の半数はNHKを週5分も見ていない…「公共放送」を自称して国民から受信料を搾り取るNHKの問題点〉(2023/4/18)

インターネットが発達し、SNSが普及し、人びとがスマホ・ネット中毒になっている現在、テレビ放送を視聴している人は少ない。若者はほとんど見ていないし、今後も見なくなっていく。

そのNHKは、他局がまったく取っていない受信料を徴収している。これはおかしいだろうというのが私の指摘だ。多くの日本人もおかしいと思っているので、NHKに対する不満が地下のマグマのようにたまってきている。だから、私の記事は共感を呼び、多くの方に読まれた。

この不満にNHKが対抗して出してきたのが、冒頭の「NHK受信料は『視聴の対価』ではなく『特殊な負担』」。つまり「見ていようといまいと、テレビやスマホを持っていようといまいと、NHKの組織の維持費なのだから払え」ということで、完全な開き直りだ。