「声をかけられる側」にメリットはない

そんなこともあり、私は改めて気を引き締めたわけだが、ここでいま一度、普段の暮らしでも、ビジネスでも、当たり前の鉄則を守らねば、ということを強調しておきたい。それは以下のとおりだ。

いきなり声をかけてくる側は、自分にメリットがあるからこちらに近づいてくる。

完全なる善意などあり得ない。

そして声をかけられる側には、メリットがほぼない

こんなシンプルな定理が、なぜ今回は頭から抜けていたのか。まぁ、2万8000円程度の損失、致命的ではないし、授業料だと捉えておこう。今後はもう、ホイホイと相手のペースに乗せられないようにする。

この「声をかける」のもっともわかりやすい例は客引きだ。「ぼったくりバー」の場合、勝手にフルーツ盛り合わせを注文されたりして、会計時に47万円を請求されたりする。これはわかりやすい「ぼったくり」だが、一時期、新宿・歌舞伎町の「ぼったくり居酒屋」も話題になった。

ぼったくり居酒屋についてはネットに多数の報告があるが、たとえば「飲み放題で一人1500円。5人で7500円ですよ!」などと客引きが声をかけてくる。そして店に案内されると「お一人様につき、必ず料理を一品以上注文してください」と告げられ、さらに会計の段になって「席料」などが追加されることが発覚。結局、5人で2万6000円になった……といったことも個人ブログなどで報告されている。

夜の歌舞伎町
写真=iStock.com/Sanga Park
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この手のぼったくりについては、YouTuberが突撃動画を公開し、アクセスを稼いだりもしている。私もそうした動画を見たことがあるが、「お通し代」「サービス料」に始まり、「週末料」「深夜サービス料」「個室料金」「席料」など、さまざまな料金が加算されていくらしい。果ては「歌舞伎町料金」という謎項目まで登場。なんじゃそりゃ⁉ 「歌舞伎町は家賃が高いので、そこんところ、許してちょんまげ」ってことか? だったら「銀座価格」「六本木価格」「木屋町通り価格」もあっていいだろうが。実にバカげている。

「ぼったくり店」にダマされるな

結局、ぼったくりに遭遇する起点となっているのは「街角でいきなり声をかけてきた客引き」である。ぼったくり店であることを承知で突撃しているYouTuberはさておき、一般客の場合、客引きの口車に乗せられて、ついていったらシャレにならない状況に陥る可能性がある。店の人間に話してもラチがあかないし、警察を呼んでも「民事不介入の原則」があるため頼りにならない。相手にダメージを与えたくても、せいぜいネットのレビュー欄に「ぼったくり店」とクチコミ情報を書き込んだり、最低評価をつけたりなど、ささやかな復讐ふくしゅうをする程度が関の山だろう。

しかし、対策を講じたり、心構えしたりすることはできる。そもそも東京という街には無数に飲食店があり、ファンがたくさん付いた良店も数多く存在している。つまり「わざわざ声をかけないと客が入らない」ような店は最初から疑ってかかるべきなのである。少なくとも、警戒心だけは持っておくほうがいい。どうせ彼らの大半は、その場限りの客をダマし、また次のカモを見つけては、ダマす……という刹那的なビジネスモデルを実践しているだけなのだ。「声をかける側」にのみメリットがあるから、しつこく客引き行為をするのである。いい店であれば営業電話をかけたり、店の前で「席、空いてますよー!」などと喧伝したりせずとも、客は勝手にリピートするものだ。