日本のスポーツ界にはどんな問題があるのか。スポーツジャーナリストの玉木正之さんは「メディアとスポーツは決して正常な関係とはいえない。スポーツの健全な発展のためには、メディアが『批判的ジャーナリズム精神』を取り戻す必要がある」という――。(第2回)

※本稿は、玉木正之、小林信也編『真夏の甲子園はいらない』(岩波ブックレット)の第三章(玉木正之氏執筆)の一部を再編集したものです。

朝日新聞東京本社
朝日新聞東京本社(写真=Kakidai/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

「甲子園批判はできない」と言う朝日新聞記者への違和感

もう20年以上前のことになるが、北海道にコンサドーレ札幌というJリーグのチームが生まれたとき、朝日新聞北海道支社主催のシンポジウムが開かれ、私は司会を依頼された。

そのときはジャーナリストのロバート・ホワイティング氏や五輪マラソン・メダリストの有森裕子さん、それに朝日新聞運動部で面白い野球コラムを書いていた名物記者の某氏などがパネリストとして参加した。

が、シンポジウムの直前になって某氏が私に、「高校野球の質問は僕に振らないでくださいね」と言ったのだった。それは私が高校野球や甲子園大会を批判する原稿を書いていることを知ってのことだったのだろう。

そのときのシンポジウムはコンサドーレとJリーグが中心で、私は司会者として特に高校野球を話題にしようとは思っていなかったので、笑いながら「ハイハイ、わかりました」と答え、「やっぱり批判はできませんか?」と瞬くと、「ええ。社員ですからね」という答えが苦笑いとともに返ってきた。

最近のことになるが、テレビ朝日の「モーニングショー」に出演していた玉川徹氏が、番組のなかで「フリーランスでなきゃジャーナリストとは呼べない。会社員には制約がある」といった発言をされたが、私は玉川氏の発言も、北海道での朝日新聞記者の態度も認めることができない。

ジャーナリスト失格

ジャーナリズムに関わっている人なら、あらゆる「社会問題」と真正面から取り組むべきだし、回答のわからないときには「わからない」と答え、会社員として答えられない問題のときは「その問題には会社員として答えられない」と答えるべきで、言論を端から拒否するような態度や行動は取るべきではないだろう。

それがジャーナリストとしての矜持だと私は思っている。

高校野球は朝日新聞社の主催するイベントだから、朝日系のメディアでは批判を口にできないというのであれば、企業の内部告発のニュースも自衛隊内部のセクハラを訴えた女性自衛官のニュースも取りあげることができなくなってしまうのではないか。