「自衛官服に着替えたい」安倍元総理に直接お願いをした
学生服のままで自衛官任命・宣誓式を行うことが、防大卒業式の美学に反するというのだ。ところが、短命政権だと、総理にお願いするのも気がひける。
そこで安倍政権が長期となることが確実となると、総理に直接に改善をお願いした。卒業式のあとに学生たちは帽子投げをして、いったん学生舎に戻り、新装の自衛官服に着替えてから会場に戻り整列する。総理が任命・宣誓式も参列されるとなると、この間、最低でも30~40分の延長となる。総理大臣にとって時間は命だ。
しかし、安倍総理に直接お願いしたところ、即決、「それで結構です。自衛隊最高指揮官として最後までいます。帽子投げも壇上で見たい」とのことで、卒業式と任命・宣誓式は、防大美学に沿った現在のものに改善された。
ちなみに、学生たちが戻るまでの間、総理と私たちは昼食懇談となる。小さな変化かもしれないが、一生を国家・国民に捧げる覚悟を決めた若き自衛官の大事な門出、彼らにとっては一生の重みをもつにちがいない。
500人の証書授与のために2週間前から“しこ”で特訓
卒業式当日の流れを簡単に説明したい。基本的には入校式や開校記念祭と同様だ。ただ、総理や防衛大臣、それに各界からの賓客が多数来られるため、当日の接遇は大変に複雑なことになる。が、準備にかなりの時間をかけ、また学生たちもそれぞれの役割分担できっちりと働いてくれるため、こうしたときの流れはさすがに防衛省・自衛隊だと思うことがしばしばであった。
卒業式の式次第は、総理入場、栄誉礼、開式の辞、国歌斉唱と続き、このあとが約1時間かけて卒業証書の授与となる。卒業生の数によって授与の時間は毎年異なるが、ここに研究科(大学院相当)も入るので、平均500人前後の証書を総理が真後ろで見守るなか、私が一人一人に手渡していく。私は毎年、一人一人に大きな声で「おめでとう」と言い続けたが、コロナ禍のなかではさすがにマスクをつけたままで、小声で囁かざるをえなかった。
1時間、勢いよく声を出して授与していると、腕が疲れるのではないかとしばしば聞かれた。腕は意外と大丈夫で、問題は太ももからお尻にかけての筋肉だ。パンパンに張ってきてかなり辛いことになるが、手渡ししながら微妙に足をずらして気を紛らわせるようにした。
卒業式の2週間ほど前から、毎年腕立てと腹筋で鍛えていたが、それに加えてしこを踏むようにしたら、だいぶ改善された。退任数年前から2週間漬けではなく、毎日腕立てと腹筋を日課として習慣づけた。そのおかげで、退任後の現在も毎日欠かさずに続けている。