健康寿命を延ばすには、どうすればいいか。東京大学大学院の佐藤隆一郎特任教授は「早歩きのできる体力の維持がカギになる。高齢者の歩行速度と予想余命年数には、有意な相関がある」という――。(第3回)

※本稿は、佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

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2週間寝たきりになると1年分の筋肉が失われる

我々の体は体重の40%程度を占める骨格筋に支えられ、保護されています。骨格筋は細長い筋繊維とその細胞間を埋めて束ねる結合組織から成ります(図表1)。

【図表1】骨格筋とは
骨格筋とは(出所=『健康寿命をのばす食べ物の科学』)p.174

筋繊維はそれぞれが個の細胞で、筋細胞と呼ばれます。筋細胞の中でも、赤みを帯びた酸素結合性タンパク質であるミオグロビンやミトコンドリアを多く含む筋細胞は赤筋(遅筋)と呼ばれ、持続的な運動に寄与します。

一方、ミオグロビンなどの含有が低く、瞬発的な運動に関与するのが白筋(速筋)です。筋繊維の集まりが筋束を構成し、筋束の集まりが骨格筋となります。骨格筋のほとんどは上肢・下肢に分布し、下肢の重量が上肢の4倍程度となります。これは、太ももにある大腿筋だいたいきんが上肢に比べて格段に大きいことからもわかります。

加齢とともに筋量は減少し、高齢者の場合は年に1~2%程度減少すると報告されています。また上肢と比べて、筋量の大半を占める下肢の筋肉量は加齢に伴う低下率が3倍にのぼります。特に体の前面の下肢骨格筋量が減少し、つま先が十分に上がらず、それまで軽くまたぐことができていた障害物につまずくようになります。

転倒してベッドで2週間仰臥ぎょうがすると1年分の筋量が失われ、そのまま寝たきり状態になれば自立活動ができる状態に戻ることは難しくなります。「筋量低下→転倒→寝たきり」という負のスパイラルに陥らないためにも、下肢を鍛えるウォーキングなどの運動習慣により筋量を維持することが必要です。