歩行速度と余命には関係性がある

下肢の重要性について、高齢者の歩行速度と予想余命年数の関係を示した興味深い研究報告があります(図表2)。

【図表2】歩行速度から予想される余命
歩行速度から予想される余命(JAMA. 305(1), 50–58, 2011)(出所=『健康寿命をのばす食べ物の科学』)p.175

図では各年齢の歩行速度を調べ、その後何年の余命があるかを示してあります。たとえば70歳男性の場合、極めて遅い歩行速度の0.2m/秒(最下段の線)であれば7年、最も速い歩行速度の1.6m/秒(最上段の線)であれば23年の平均余命を持つと示しています。

また、70歳女性では同じ条件下で10~30年と20年もの開きがあります。つまり、70歳になっても若い人と変わらぬ速さで歩ける健脚の持ち主は、その後も健康寿命を維持し、長生きする可能性があるということです。早歩きできることは、筋量が十分で、老化による機能低下が生じていないことを意味しています。加齢に伴いのんびり歩くのではなく、早歩きできる健脚を維持することを心がけるようにしましょう。

基礎代謝量の増加は生活習慣病を予防する

運動は骨格筋を弛緩しかん・収縮させることにより行われ、その過程でエネルギーが必要とされるため糖質・脂質が消費されます。運動によりカロリー消費が高まれば肥満を防ぐことができます。このように生体成分が代謝され、形を変えることを異化と言います。

運動終了後、しばらくしてから筋肉では筋肉量を増やすべくタンパク質合成が上昇し、同化作用が起きます。つまり運動は時間差で異化・同化というまったく方向性の異なる生理変動を惹起するわけです。こうした生理変動と同時に、骨格筋は代謝組織としても重要な働きをしています。

食後の血糖値上昇に伴いインスリンが分泌されると血糖値が低下しますが、これは血中グルコースの75%近くを骨格筋組織が取り込むためです。血糖値を正常値に近いレベルに維持するには、骨格筋量を維持することが必須となります。加齢とともに骨格筋量が減少すれば身体機能の維持が難しくなり、なおかつ血糖維持を介した代謝制御機能も脆弱ぜいじゃく化します。

高齢者が適切な筋量を保持し、自立活動を可能にする身体ロコモーション機能を維持すれば健全な代謝制御機能が保たれ、健康維持にも結びつきます。もちろん中年男女にとっても筋量を維持し、基礎代謝量を上げておくことは生活習慣病発症の予防につながることは言うまでもありません。