運動と脂肪燃焼はどのように関係しているのか
活性型AMPキナーゼは種々のタンパク質をリン酸化し、その活性を調節します。脂肪酸合成の初発段階を触媒するアセチルCoAカルボキシラーゼ1はアセチルCoAからマロニルCoAを合成します。
AMPキナーゼはこの酵素をリン酸化し、活性を抑制することにより脂肪酸合成、トリグリセリド合成を低下させます。それと同時にコレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素をリン酸化して活性を抑制し、細胞内コレステロール合成を低下させます。エネルギーを使い切った時点で、さらにエネルギーを費やして脂肪酸やコレステロールを合成する必要はないので、これらの合成経路を遮断します。
さらには脂肪酸β酸化経路を活性化し、脂肪酸燃焼を活性化させます。運動することにより骨格筋で積極的に脂肪酸が燃焼されると、血液中のトリグリセリド(中性脂肪)の低下に結びつきます。
一方、AMPキナーゼは骨格筋による血液中のグルコース取り込みを上昇させる作用も持ちます。先に説明したように血糖値が上昇した際、骨格筋はその75%程度を取り込み、グルコース貯留庫のような役割を果たしています。これは血糖値の上昇に伴い膵臓からのインスリン分泌が上昇し、血液中のインスリンと骨格筋細胞表面のインスリン受容体が結合し、細胞内へとシグナルを伝達したことにより生じます。
運動すればインスリンの力を借りずに血糖値を下げられる
陸上競技のリレーのように、受容体がインスリンを結合すると細胞内の複数の因子が順番にリン酸化され、次々とリン酸化を介して信号を伝達していきます。このように信号が伝わる経路のことをカスケード(もともとは何段も連なった小さな滝のことを示す言葉でした)と呼びます。
骨格筋細胞の表面でグルコースを取り込む輸送体はGLUT4というタンパク質です。インスリンの信号が来ていない状態では、GLUT4は細胞内の貯蔵小胞上に留まっており、血糖上昇に伴いインスリンが分泌されると、筋細胞表面のインスリン受容体からのカスケードシグナルが貯蔵小胞に到達します。その結果、小胞は細胞表面へと移行し、細胞表面のGLUT4タンパク質量が上昇すると取り込みも促進されます。
一方、運動により筋細胞内のAMPキナーゼが活性化されると、インスリンシグナルカスケードとは別の経路で貯蔵小胞の細胞表面への輸送を促進します。糖尿病やメタボリックシンドロームでは血糖値が上昇し、インスリンが分泌されますが、やがてインスリン受容体を介してのシグナル伝達が十分に作動しなくなります。このようなインスリン感受性の欠落した状態を「インスリン抵抗性」と呼びます。
この場合、インスリンは分泌されるものの十分に血糖値が下がらなくなり病状はより悪化しますが、運動することにより、インスリンの力を借りずにAMPキナーゼの作用により血糖値を下げることが可能です。