キャバクラで綱渡りの生活

実家では、母親が寝たきりの状態だった。父と姉の3人暮らしに急遽、乳児と真希さんが加わったことで、不協和音が生じた。姉は美容師という激務ゆえ、夜はゆっくり休みたい。なのに、夜泣きで眠れないと訴え、父もイライラを隠さない。

「私は実家が天国ではなかったし、夫の実家よりはマシというだけ。早く出て行かないと、という思いはありましたが、3カ月の子どもを抱えていては身動きが取れなくて、結局、1年ぐらい実家にいて、近くのアパートに引っ越しました」

引っ越し費用は、1カ月約4万円の児童扶養手当を貯めて捻出した。しかし、働こうにも保育園には入れない。今から16年ほど前からすでに、保育園の待機児童問題が起きていたのだ。

「母子家庭だと言っても、ダメでした。保育園って働いていないと申し込めなくて、でも働き始めるには保育園に子どもを預けていないと働けない。これって、本当に矛盾しています」

最近でもよく聞かれる、母親たちの悲鳴だ。

「どうしようもないので、民間の24時間営業の託児所に入れて、働き始めました。短時間でお金を稼げるので、夜の仕事にしました。キャバクラです。時給は、2000円か2500円ぐらい。週4から週5はやっていました」

子どもを18時に保育園に預けて仕事に行き、お店の車で迎えに行くのは夜中の3時。自宅に戻り、3時半に就寝。朝7時には子どもが起きるので、朝食を作ったり、洗濯をしたり、子どもと遊んだりして過ごし、夕方に保育園という繰り返し。真希さんは睡眠時間3〜4時間という日々を過ごす。

「託児所で夜ご飯を食べるので、保育料は月10万円にもなって、家賃と光熱費が合わせて10万円。これだけで20万円が飛びます。食費に子どものオムツ代とかおもちゃ代とかもかかるので、大体、月に20万円から30万円ぐらいを稼いでいたと思います。ここに月に換算すると、4万円ほどの児童扶養手当が加わります」

夜の仕事とはいえ、ギリギリの暮らしだ。経済面だけでなく身体的にも、これでもつはずがない。3カ月後に、家庭保育室という認可保育所が使えるようになった。保育者の自宅で、複数の子どもを預かるもので、日中、ここに子どもを預けて、真希さんは睡眠時間を確保した。

「もう、子どもとほとんど接する時間がなくなって、やっぱり、3カ月ぐらい経ったら、子どもが保育所に行きたがらなくなりました。それで、夜の仕事を辞めて、昼間の仕事を探したんですが……」

資格もなければ、職歴もない。1歳の子どもを抱えたシングルマザーに、社会はあまりにも冷たかった。

「小さな子どもがいるっていうだけで、断られました。たとえば、スーパーのパートでさえ、断られるんです」

1人で幼子を抱え、頑張って生きている女性を、この社会は突き放すことしかできないのか。程度の差はあれ、“女性活躍社会”を謳う今でも、変わっていない現実だ。