「部長にどえらく叱られた」ことまで書き残す

「花見の幹事、いきなりはできないんです。

まず、マニュアルがありますからそれを見て、今年はどこをカイゼンしようかと考える。ただし、予算は前年と変わりません。マニュアルにはチェック項目がいくつもあります。

ドレスコードはどうする? 集める会費はいくらにするか? ゴザの用意と場所取りはどうするか? それを書類にするんです。今ではパワーポイントかな。

目的は『花見を成功させる』。その後、チェックポイントを書いていく。それでも初めて幹事をやった人間は失敗します。料理を頼んだのはいいけれど、冷たい食べ物ばかりのセレクションで参加者からブーイングを食らったとか。

天気は晴れるに決まっていると考えて雨具の用意をしなかったら雨が降ってきて、部長から、どえらく叱られたとか。

そんなよかったこと、悪かったことを記録して翌年に残す。花見の記録をこれほど詳細に残すのはトヨタくらいです。『部長にどえらく叱られた』とちゃんと書いておくのはとても重要です」

お花見
写真=iStock.com/imagenavi
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PDCAをSDCAにするのは会議も花見も同じ

前年のマニュアルには花見のPDCA資料が載っている。初期の花見計画、当日の記録、よかったこととダメだったこと、翌年のためにカイゼンするところ。すべてを書く。

「そして、一度作ったPDCA(プラン、ドゥ、チェック、アクション)の書類を来年使う時、それはSDCAのマニュアルと呼ばれます。Sとはスタンダードの略です。一度、行ったプランはスタンダードとなり、その翌年から必ずカイゼンしなくてはいけないのです。

「そうしてカイゼンしてできたマニュアルがまたスタンダードになる。花見でもトヨタのそれは前年よりも、どこかよくなっています。ただし、予算はほぼ同じですから、担当者はビールをシャンパンにするといった金がかかるカイゼンはできません。ビールの半分を酎ハイにして、お金を浮かせて、それでシャンパンでなくスパークリングワインを2本買うといったカイゼンを考えるのです。

花見の幹事をすることは仕事の仕方を覚えることでもあります。PDCAをSDCAにするのは会議でも変わりありません。

また、花見では毎年、何らかのチャレンジが期待されます。完璧にこなすとは前の年と同じ花見をやるのではなく、どこかにカイゼンが必要なのです。もちろん、チャレンジが失敗したからといって責められることはありません。記録に残るだけです」

幹事経験者は最後にひとこと付け加えました。

「花見の幹事が完璧にできるやつは一事が万事ですから、ほぼ出世してます」

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